筆者自身が30年以上もの間、「企業の人事管理」という職業を通じて追い求めてきたものは結局何だったかと問われれば、それは「人間らしさ」と「自由な労働」ということだったのだろうと最近思います。
1.人間らしさ
「人間らしさ」というのは、「人間性(ヒューマニズム)」と同義です。それが「人事」の最も基本的で重要な価値観だと思います。人事上のあらゆる判断は、「それが人間性(ヒューマニズム)に適っているかどうか」が分水嶺になると思います。
ところで、何が「人間性(ヒューマニズム)」に適っているかは、時代(歴史的な人間と社会の発展段階)によって異なるだろうと思います。封建社会から市民社会への移行期には、自由と平等が「人間らしさ」の象徴であったはずです。
ところが未だにいずれの社会においても、「労働」の意味が、多くの人間にとって単に「賃金を得る」ための手段でしかなく、「人間的な目的の達成や価値の実現」「自己実現とそれに向けた成長」という「人間らしさ」からは疎外されているように見えます。
2.自由な労働
「労働(=はたらくこと、仕事すること)」の意味が、「労務に服して賃金を得る」ことでしかないことは、「人間性(ヒューマニズム)」や「人間らしさ」に「適う」ことなのではないと思います。人間や社会は、もっともっと豊かで深い成長や進化を遂げて行くはずです。
「労働」が「人間的な目的の達成や価値の実現」や「自己実現とそれに向けた成長」という「人間らしさ」に適うような成長や進化です。それは単に「生産性」や「生産力」の向上では無く、「働く」ことを通じたもっと人間的な成長や進化です。
それがどのようなものであり、これからどうすればいいかは、筆者にとってはまだ課題のままです。「そのためには」「そのためには」と逆算して、自分自身の「働き方」を変えて見せることが、最も現実的かもしれません。
<「自由な労働」のイメージ>
① 義務でない労働
② 何ものにも服さない労働
③ 賃金や分配とは切り離された労働
④ 人間的社会的な目的を達成し、価値を実現するための労働
⑤ それを通じて社会が豊かになり、人が成長する労働
⑥ それを通じて人と人が社会的・組織的に協力し合う労働
⑦ 技術革新や生産力の向上が労働の質の向上につながるような労働
<追記事項>職業の原初的意味
1.大震災で被災した少年が志した職業とは
大震災の被害を伝えるテレビニュースの中で、肉親を失った少年がテレビのインタビューに答えて、「自分は将来、消防士のような人の命を救う職業に就きたい。そのために自分を鍛えたい」と言っていた様子が今でも筆者の印象に残っています。
筆者は、この言葉の中にこそ、人間にとっての「職業(仕事)」の本質的な意味合いが語られていると思います。「職業(仕事)」とは、人間的諸価値を実現するための社会的協働であり、それを通じて人間自身を豊かにし、成長させるものであると。
また、高等学校の卒業に際して、当時17歳のマルクスが、「職業の選択に際しての一青年の考察」という文書の中で、次のように既述したことが知られています。(大内兵衛「マルクス・エンゲルス小伝」岩波新書)
2.職業の選択に際してのマルクス青年の考察
「職業の選択に際して我々を導いてくれなければならない主要な導き手は、人類の幸福であり、我々自身の完成である。これら両方の利害が互いに敵対的にたたかい合うことになり、一方が滅ぼされなければならないなどと思ってはならない。
そうではなくて、人間の天性というものは、彼が人間と同時代の人々のため、その人々の幸福のために働くときのみ、自己の完成を達成しうるようにできているのである」と。(若いマルクスの透徹したヒューマニズムが表れた言葉だと思います。)
後年、マルクスは資本主義下での「疎外された労働」(人間にとっての労働が逆に人間自身を疎外する)という概念に到達するのですが、青年マルクスの言葉にも、人間にとっての「職業(仕事)」の本質的・原初的意味が語られています。
3.より人間的な協働関係へ
因みに、労働法における「労働(雇用)」とは「労務に服して賃金を得ること」(=賃労働)であり、現に我々自身の「労働」の多くがその人間本性的・原初的意味を離れて、「労務に服して賃金を得る」ための手段に脱してしまっているようです。
それが単に資本主義社会という人間的・歴史的な発展段階における矛盾であり、やがてはマルクスの言う「人間の天性」が、その矛盾を止揚して「人間的な労働」が一般的であるような社会に必然的に進むのか、筆者には未だ分かりません。
資本主義下でも社会主義下でも、「人間的な労働」を一般化するためには、「個人と組織」の関係そのもの、「個人と社会」の関係そのものを「疎外関係から協働関係へ」転換するための具体的諸個人による現実との格闘が必要です。
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