20170922_仕事はコミュニケーション

 

1.仕事の問題はコミュニケーションの問題

 

 何らかの人間的・社会的な目的を達成し、価値を実現しようと思うなら(つまり「自己実現」したいなら)、組織協働的に(つまり「人と組織を通じて」)するのが現実なのですから、少なくともそうする限りにおいてはコミュニケーションの力は必須の力です。

 

 多くの皆さんに共通する経験があるはずですが、「仕事が上手く行かない」場合の最大の原因のひとつは、仕事上でかかわる人たちとの「コミュニケーションが円滑でない」ことであり、それを基礎・前提とする理解・協力・信頼が得られないからです。

 

 つまり、「仕事が上手く行くのはコミュニケーションが良いから」であり、「仕事が上手く行かないのもコミュニケーションが悪いから」です。「組織協働的な仕事で生じる問題のほとんど全てはコミュニケーションの問題」です。

 

2.コミュニケーションのポイント

 

 そして、「コミュニケーションが上手く行く」ためのポイントの第一は「聴く(肯定的受容と積極的傾聴)」であり、第二は「伝える(相手の脳裏に絵を描くようにあの手この手で伝える)」ことです。

 

<上手く「伝わる」ためのコミュニケーションの要素(七つ道具)>

 

① 一義性

 

 簡単に言うと「ひとつの言葉にはひとつの意味しか持たせない」ことです。日常生活では(友人間や家族間では)多義性や曖昧性のある言葉のほうがむしろ多いと思いますが、仕事上のコミュニケーションにおいては「一義性」を重んじるべきです。

 

 また、筆者のもとに時々「何のことかわからない」メールが届きますが、よく読むと「何を」「誰が」「いつ」「どこで」「なぜ」「どうやって」「どのくらい」という基本要素が不用意に省略されていて、「一義性」を欠いていることに気付かされます。

 

 「数値化や定量化」は「一義性」を高めます。「数値化や定量化」になじまない場合は「具体化や例示化」が必要です。また「一義的に定義された概念や用語を使うこと」「同じ言葉は同じ意味で使う(同じ意味なら同じ言葉を使う)」ことも重要です。

 

② 論理性

 

 「一義性」と並んで「伝える」コミュニケーションのもうひとつのポイントは「論理性」です。例えばそれは「1+1=2」という数理的な合理性であり、「AならばBである」という論理的な整合性です。

 

 それは「知識」や「学習」として得られる場合もあり、「常識」や「良識」とされる場合もあります。それらをふまえず「自分勝手な屁理屈やこじつけ」を持ち込もうとしても少なくとも実務の世界では通じません。

 

 筆者のもとに時々「訳の分からない」メールが届きますが、よく読むと上記の「論理性」に欠ける(「論理性」およびその前提となる「知識」や「学習」や「経験」や「常識」や「良識」に欠ける)場合が多いように思います。

 

③ 一貫性

 

 筆者はときどき、仕事の上でも「何について話をしているのか、何が問題なのか分からない」会話に巻き込まれることがあります。お互いに論点や論旨を意識的に明確化し、共有化しながら対話をすすめるべきでしょう。

 

 また「何について話しているか・書いているか」を常に「指し示し(Indicate)ながら話すこと・書くこと」も重要で、「次に~について話します」という話し方や、見ただけで内容が推測できるようなテーマや見出しの書き方が必要です。

 

 また、前記①の「一義性」は、言い換えれば「一貫性」です。「同じ言葉を同じ意味で使う」という「一貫性」であり、「論理(なぜそう言えるのか)」や「論点(何について言うのか)」や「論旨(何が問題なのか)」の「一貫性」です。

 

④ 視認性

 

 情報の多くは非言語的な要素、特に視覚や印象から伝わります。その意味で話し手の表情や態度はコミュニケーションの促進要因にも阻害要因にもなります。「和顔愛語」は相手側の「バリア」を解きほぐし、「伝わりやすさ」を高めます。

 

 また、「箇条書き」や「段落分け」も「視認性」を高めます。文書やメールだけでなく、話し言葉においても「箇条書きのように話す」「段落分けしながら話す」「視覚化しながら(描きながら)話す」ことも「伝わりやすさ」を高めます。

 

 その他、可能な限り「図表化」をすることも「伝わりやすさ」を高めます。イメージ図や一覧表は読み手の理解を助けます。また相手の視点で「結論を先に、理由を3つ」という文書上の配置も「伝わりやすさ」を高めます。

 

⑤ 合理性

 

 相手にとって一義的で、論理的で、論点と論旨が明確で一貫したものであっても、それが相手にとって合理性と納得性の高いものでなければ、相手には伝わらず、通じず、相手の理解も協力も得られません。

 

 合理性のひとつは「目的合理性(合目的性)」です。お互いの目的や価値を尊重し合い、共有し合い、それを達成・実現するために有効であるか、という点が「効果的で効率的なコミュニケーションを行う、ということです。

 

 相手の状況、考え、感じ、目的、価値、要望など、総じて言えば「相手側の諸価値」への尊重とそれらと組織協働的な目的や価値との整合性(目的合理性・価値合理性)」を高めることが「伝わりやすさ(理解と合意と協力の得やすさ)」を高めます。

 

⑥対話性

 

 「質問と回答が対応しない」「論旨や論点が合わない」「聞かれてもないことを延々としゃべる」ような会議がありまありますが、「対話的」なコミュニケーションは、相手の発言の意味や趣旨、相手の興味や関心に対応しなければ成り立ちません。

 

 また、一方的な伝達に終わってしまっては、相手の理解も同意も協力も得られません。「どう思うか?」「どう感じるか?」など、相手の意見や感想を引き出しながら「対話的に話す」ことも「伝わりやすさ」を高めます。

 

 「対話的」であるということは、「相手の理解や合意を得ながら話を進めること」であり、言い換えれば「同じ意味なら相手の言葉を使って話すこと」「自分が言いたいことが相手の口から出てくるように話すこと」です。

 

⑦ 共感性

 

 上記はいずれも「伝わる」コミュニケーションに必要な要素ですが、「マネジメントスタイルのP型とM型」で言えば、やはり「P型(パフォーマンス型)」に偏り、「M型(メンテナンス型)」の要素が少ないと言えます。

 

 つまり話し手(書き手)にとって最も重要な要素のひとつは、相手が「どう思うか?」「どう感じるか?」ということへの「共感性」であり、同時に「相手にどう受け取られるか?」という自分自身への「感受性」です。

 

 人は「論理性」や「合理性」だけで「動く(理解・合意・協力する)」わけではありません。相手の目的や価値、事情や都合、考えや感情、そうした相手側の諸価値への尊重と共感と配慮が、話し手の態度や言葉の端々に顕れることが重要です。 

 

⑧ 合意形成と理解協力

 

 「聴いていないのは人の常」です。「物理的に音声が耳に入らず、文字が目に入らない」場合もありますが、「人の言い分(言いたいこと、伝えたいこと、聞きたいこと)より自分の言い分(言いたいこと、伝えたいこと、聞きたいこと)を優先する」のが人の常です。

 

 しかしそんな中でも積み木を積み上げるように、ひとつひとつの事実関係や状況認識や問題意識を共有化し、後戻りや蒸し返しを避けつつ(我慢しつつ)、合意形成と協力関係を積み上げる以外にはいかなる「仕事」も「上手く行かない」はずです。

 

3.相手との間のコミュニケーションのレベルの計測と制御

 

 上司や部下や同僚や顧客などを相手にする場合、自分と相手とのコミュニケーションのレ

ベルを測り、これを上手くコントロールすることができれば、ほとんどの課題は解決され、ほとんどの仕事は上手く行くはずです。

 

 レベル+2(信頼レベル);相手が信頼を寄せ相談してくる。

 レベル+1(関心レベル);相手が興味・関心をもって積極的に聴く。

 レベル 0(伝達レベル);相手に到達している。

 レベル-1(無視レベル);相手が無関心・無反応。

 レベルー2(迷惑レベル);相手が反発・拒絶反応。

 

<追記事項_20190725>

 上記のレベルの「測定」は、例えば100名分の「メーリングリスト」に何かを「一斉配信」してその反応を見ればある程度「推測」できると思います。レスポンスがあればレベル+1以上、3回打ってレスポンスがなければ-1以下でしょう。

 

 但し、相手の視点から見て、いかにも「機械的な一斉配信」のようなメールはレスポンスが必然的に低くなります。その人との個別事情、個別のやり取りとしてのメール発信にする手間を省くべきではないと思います。

 

<部下を相手にするとき>

 

 もちろんレベル0以上でない上司としてのマネジメント機能は発揮できません。レベルー1やレベルー2の部下をそのままにしてはいけません。そうした部下との間のコミュニケーションレベルこそ、個別に改善・向上しなければなりません。

 

 部下は「自分の人格的諸要素(感情・思考・尊厳・価値・努力…)を無視または否定する上司の言動や態度」に対して無視・拒絶・反発・攻撃…という反応や態度を示します。先ずは部下の人格的諸要素を肯定的に受容することが必須要件です。 

 

 部下が上司に期待することは、例えば「先見性」や「指導性」です。部下の見地を(時間や範囲)超える見地から部下に指し示し、部下を動機付けてくれることです。(「上から目線」でなく。)これを繰り返せばコミュニケーションレベルが上がります。

 

<顧客を相手にするとき>

 

 例えばコンサルティング業で関係先を相手にコミュニケーションをとる場合、現状のコミュニケーションレベルの分布状況を計測・改善するためのPDCAが必要です。例えば顧客への情報提供に対する反応によって計測でき、情報提供の工夫によって改善できます。

 

 客先が必要とする情報は、客先が困っていること、悩んでいること、その他興味・関心を持っていることであって、それは客先によって様々なのですから、それに応じた、適確な情報提供を、その反応を見ながら継続的に行うことが必要です。

 

 ① それは客先の困り・悩み・興味に沿った情報か?

 ② それは客先にとって新しい情報か?

 ③ それは客先にとって他から得られ難い情報か?

 ④ それは迅速・正確・丁寧な情報か?

 ⑤ それは①の現実的な解決につながる情報か?

 

4.コミュニケーションの上手下手

 

① 聴き上手と聴き下手

 

 「肯定的に受容し積極的に傾聴する」、「相手の話を遮らずに最後まで聴く」、「言っていることより言いたいことに心耳を傾ける」等々はコミュニケーションの第一歩である「まず聴く」の鉄則ですが、相当の高位者・経験者・年配者にもそうでない人が多いようです。

 

 特に、相手の発言(相手が今まさに言おうとしていること、言いたいこと、聞きたいこと)をわざわざ遮ってまで、筋違いの発言をさしはさむ人が多いのには閉口します。(「ちょっと待て、相手はそんなことを言っていないし、聞いてもいない」)

 

② 報告上手と報告下手

 

 報告で一番大事なことは「相手はどんな人か?」「相手に何を伝えたいのか?」「相手が知りたいことは何か?」「相手の知識や理解の程度は?」という、ほとんど「相手」にかかわる問題です。現実には「相手」の見えていない報告が多いように思います。

 

 報告というのは、「相手」の「脳裡」を「キャンバス」に見立てれば、「画家がキャンバスに絵を描くのと同じ」だと思います。「相手」の状況に合わせて、「相手」の反応を見ながら、「相手」というキャンバスにこちらの思い通りの絵が描けてはじめて完成です。

  

<上手な報告のしかた>

 

① 何を報告するか。

 

 「何を報告すれば良いですか?」と尋ねる人がいるかも知れませんが、筆者なら「報告すべきことを報告する」「どうなったと聞かれる前に報告する」「困ったときや、どうしようかなと思ったとき、悪いことほど、気後れせずに報告する」としか答えません。

 

② 誰に報告するか。

 

 組織的協働において情報や認識を共有化すべき相手や周囲や関係者に対してです。特にそれに基づいて判断や決定をする権限と責任を持つ人たちに対する(組織の階層構造の上部に向かってする)「エスカレーション」としての報告が重要です。

 

③ いつ報告するか。

 

 「適時報告」が基本であり義務です。自分に都合の悪いことほど気後れして時機を逸してしまうことがあるかも知れませんが、それではますます判断や解決を困難にするでしょう。また、「足の長い仕事(日時のかかる仕事)」には「中間報告」が必要です。

 

④ どのように報告するか。

 

・正確・迅速・丁寧に報告する。

 

 一般的な仕事のしかたと同じですが、報告は正確・迅速・丁寧であること。先ずは正確な報告でなければならないが、同時にタイミングを逸しない、気後れを手遅れにしない報告であること。丁寧さとは相手にとっての分かり易さのための工夫や手間。

 

・資料や記録を添えて報告する。

 

 よほど急ぐ場合は口頭だけで報告しても良いが、そうでなければ記録や資料を記録や資料には作成(発行)日付と作成(発行)者名を明記すること。予め文書や電子メールで速報を入れておき、後で口頭で補うのが良い。

 

・会話的に報告する。

 

 一方的にまくし立てる報告や資料を読み上げるだけの報告では、おそらく半分も聴いて(分かって)もらえません。相手の理解に応じて、相手の「?(疑問)」や「!(興味)」をむしろ引き出すようにしながら会話的に報告しましょう。

 

・何もなくても報告する。

 

 報告する側が「何もない(特に報告すべき問題は無い)」と思っていても、相手側は「~はどうなっているのか?」と気をもんで待っているかも知れません。「何もない」と思っても定期的に報告に顔を出せば雑談からでも何かが発見できるはずです。

 

・相手の頭の中に絵を描くように報告する。

 

 「報告」というのは、相手の脳裡にある「理解」という絵を「報告」という絵具と絵筆を使って「描き上げて行く」ような仕事です。相手が知りたいポイント、相手が気にするポイント、相手に伝えたいポイントが絵や曲の「モチーフ」に当たります。

 

 高名な政治家の田中角栄はたいへん短気な人であったそうですが「最初に結論を言え。そのあと理由を三つ言え。」と部下に指示したそうです。先ずは相手が知りたい、相手に伝えたいポイント(報告のモチーフ)を相手の脳裏に印象付けることが大事です。

 

 その後は相手の知識や認識や興味や関心や理解に応じて必要に応じて時間をかけ、必要に応じて場所や時機をあらため、必要に応じて確認や調査やを行ない、必要に応じて口頭または文書で、相手の脳裏をキャンバスに見立てて絵を描きこんで行くのです。