20190927改_「同一労働同一賃金」なんてありえない?(その本当の意義と実務的対応)

 

1.(私見)「人間の労働」である限り、「労働の同一性」などあり得ないと思う。

 

 「同一労働・同一賃金」という言葉を耳にしたとき、筆者は「いったいどこの国(体制)の言葉だろう?」と、耳を疑いました。労働の「同一」性など計り得ず、「人間の労働」である限り、Aさんの労働とBさんの労働(内容や価値)の同一性などあり得ない

 

*この点旧法令下(2013年3月_労働契約法第20条施行前)での判例のいくつかも、たとえば以下のように判示しています。

  

那覇市学校臨時調理員事件(20011017_那覇地裁)では…

「…仮に、同一労働同一賃金の原則を現実に採用しようとしても、その労働価値が同一であるか否かを客観性をもって評価判定するに際し、人の労働というものの性質上著しい困難を伴い…」

 

日本郵便逓送事件(20020522_大阪地裁)では…

「…労働の価値が同一か否かは、…同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払い期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない。」

 

京都市女性協会事件(20090716_大阪高裁・20100205_最高裁)では…

「…被控訴人(第一審被告・財団法人)は、相談業務の特質に応じて、それを、被控訴人の業務全体に通暁した基幹職への成長が期待されている一般職員ではなく、比較的短期間、在職することが予定され、相談という専門的で特殊な職能に応じた嘱託職員を採用して割り振り、担当させていた(ことは)使用者の判断として合理性を欠くとは認めがたいし、その状況に照らすと相談業務を担当する嘱託職員の労働が一般職員の労働と同一価値であるとまで認めることはできない。」

「…以上によれば、控訴人の職掌が相談業務及びこれに関連する業務に限定され、比較対照すべき一般職員が見あたらないうえに、年齢等の採用条件が一般職員とは異なっており、また採用後も職務上の拘束が弱く、負担も一般職員より軽い扱いであったことなどの差異があったと認められ、これらの点を総合すると、控訴人の労働が一般職員の労働と比較して同一又は同一価値であるとは認めることができない。 」

 

<参考URL> 

労働政策研究・研修機構

パートタイム労働者に対する賃金格差

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/11/91.html

 

<上記以外の参考判例>

ダウンロード
旧法令下での判例.pdf
PDFファイル 387.0 KB

*そして労働契約法 20 条_20130301施行では…

 

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定されていましたが、

 

*さらに短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律_20200401施行では…

不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
(賃金)
第十条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。」とされました。

 

*つまり、基本給、賞与その他の待遇は、
①職務の内容 = a.業務の内容 + b.当該業務に伴う責任の程度

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲

が「同一」の場合は差別的取扱いを禁止(均等待遇を義務付け)し、

それ以外の場合、賃金については、

③その他の事情として、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案して通常の労働者との均衡を考慮しつつ決定するように努める(均等待遇の努力義務)こととなりました。

 

*この点、「ガイドライン」(「同一労働同一賃金ガイドライン」)では…

上記を前提に、例えば「基本給」の取り扱いについて以下のような説明があり、「問題とならない事例」と「問題となる事例」が例示されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

 

「1 基本給

(1)基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、 通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、 能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給し なければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合において は、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(2)基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて、 通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、 業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給し なければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合において は、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。 なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する 場合も同様である。
 (3)基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通 常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年 数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければな らない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に 応じた基本給を支給しなければならない。

(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについ て、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労 働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同 一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の 相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならな い。 

 

*さらに「マニュアル」(「不合理な待遇格差解消のための点検・検討マニュアル」業界共通編P20)では…

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html

 

①_a.「業務の内容」とは…

 「業務の種類(職種)と従事してい る業務のうち中核的業務が実質的に同じかどうかで判断」し、「業務の内容は業務の種類(職種)と中核的業務で判断する」こととし、「中核的業務」とは、職種を構成する業務のうち、その職種を代表する中核的なものを指し、職種に不 可欠な業務を指す」こととしています。

①_b.「責任の程度」とは…

 「業務の遂行に伴い行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等」をいうものとしています。

 

*「均等待遇」と「均衡待遇」の要件として同「マニュアル」は…

 「事業主が、均等待遇、均衡待遇のどちらを求められるかは、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じか否かにより決まります。①と②が同 じ場合には、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いが禁止され、「均等待遇」で あることが求められます。

 それ以外の①あるいは②が異なる場合は「均衡待遇」であることが求められ、短時間・有期雇用労働者の待遇は、①と②の違いに加えて「③その他の事情」を考慮して、通常の労働者との間に不合理な待遇差のないようにすることが求められます。 」としています。

 

*以下総じて、「同一労働・同一(均等または均衡)賃金」に関する私見ですが…

 

1)「均等な処遇」が「同一の処遇」を意味し、これを法的効果とするなら、法的要件として上記①②が「同一」でなければならず、「マニュアル」が①-aについて、「中核的業務において実質的に同じ」なら「同一」だと言うのは無理があると思います。

 

2) 冒頭に述べたとおり、そもそも上記①の「職務の内容」が「同一」であるケースは、それが「人間の労働」である限りよほど単純な作業的労働でないかぎり「現実的にはあり得ない」とさえ筆者は思います。(簡単に言えば「人が違えば職務の内容は違う」はず。)

 

3) したがって現実的には、①と②の「同一」を前提とする「均等待遇」よりも、①あるいは②の違いを前提に、①②および③の「違い」に応じた「均衡待遇(不合理な格差の解消)」が「法律上の争点となり、実務的な対応のポイントになる」と思います。

 

2.(私見)「同額」と言う意味では「賃金の同一性」も「あり得ない」と思う。

 

 欧米の一部では産業別・職種別・経験別・職位別の同一賃金が、企業の枠を超えて成り立っているのかも知れませんが、わが国では、新卒者の初任給や、時給者の時給などの「相場観」以外に同一感も統一感もありません。

 

 そもそも「何に対して賃金を支払うか」について言うなら、「労働そのものへの対価として支払う」と言うよりは「当該労働者が労務に服することへの対価」として支払うのだと、筆者は解します。

 

(もっと言えば、現状の正規職員と非正規職員の賃金格差は、正規職員や非正規職員というそれぞれの労働者の区分に内在するそれぞれの属性に応じた賃金格差であり、「新法」と言えどもそれを完全に否定し去ることはできないというのが筆者の理解です。)

 

 先の判例が言う通り、「人間の労働である限り、労働の同一性は成り立ち難い」し「労働(の属性)への支払いでなく労働者(の属性)への支払いである限り、賃金の同一性も成り立ち難い」というのが、「同一労働同一賃金」(という理念)に関する筆者の認識です。

 

 もっとも「新法」も「ガイドライン」も、「同一額の賃金」を求めているのではなく、「不合理な(賃金等の)格差の是正」と言っているので、どの程度の「賃金額の格差」が「不合理な格差」にあたるかは、今後の判例の積み重ねに待つ以外にありません。

 

*この点、労働契約法第20条施行後の「基本給」および「賞与」の格差に関する最近の判例では…

 

*学校法人産業医科大学事件(20181129_福岡高裁)では…

<事案>…勤務先である大学から任期1年の臨時職員として採用され、以降30年以上にわたり契約を更新し、大学病院の歯科口腔外科で予算・物品の管理、講義の準備、学生の出欠管理等の業務に従事、賃金総額が同じ頃に就職した正社員の賃金と比較して基本給の金額で約2倍の差が生じた。(賞与は支給されており退職金は支給されず。)

<判旨>

高裁は月額3万円の限度で正社員の賃金と臨時職員の賃金との間には労働契約法20条に違反する「不合理」な差があると認定し、これに基づき基本給28か月分と賞与5回分の賃金差額の合計額である113万4000円分について不法行為に基づく損害賠償請求を認めた。

 

*大阪医科薬科大学事件(20190215_大阪高裁)では…

<事案>大阪医科薬科大学(Y)にフルタイムで期間の定めのある時給制の「アルバイト職員」として採用され、基礎系研究室において教室事務員として勤務してきた控訴人(X)が、給与、賞与、夏季特別休暇、私傷病休職の間の給与等につき、「正職員」との間の格差が労契法20条に違反するとして、差額分を請求した。アルバイト職員の賃金は、年収にして他の基礎系研究室で就労する正職員の約三分の一、新規採用の正職員の55%であったが、正職員である教室事務員と職務内容は同じであり、配置転換についてもアルバイト職員にも命じる旨の規定があった。

<判旨>…判断の前提としてアルバイト職員との比較対象者について原審と同じく正職員全体であるとしつつ…特に賞与に関しては、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価であり、賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとの判断を前提に、賞与の支給額の決定方法からは、支給額は正職員の年齢にも在職年数にも何ら連動していないから、賞与の趣旨が長期雇用への期待、労働者からみれば長期就労への誘因となるかは疑問であることを踏まえ、有期雇用である契約職員の80%も賞与を受給していることなどからすると、アルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは「合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない」と断じた。一方で、Xの賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨も含まれており、また不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定しがたい点に鑑み、また正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから、アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めないことを考慮すると、アルバイト職員が受給すべき賞与の額は正職員の場合と同額であるとまではいえず、具体的には、60%を下回る場合に不合理な相違に至るものというべきであるとした。

 

*メトロコマース事件(20190220_東京高裁)では…

<事案>

 …駅構内における物品販売等を業とするYには、無期雇用で月給制、職務に限定のない正社員と、月給制ではあるが有期雇用で職務が限定されている契約社員A、時給制であること以外は契約社員Aと同様である契約社員Bという人事区分があり、それぞれ異なる就業規則が適用されていた。Xらは、契約社員Bとして10年前後勤続しており、店舗の販売業務とその付随業務に従事していたが、正社員とほぼ同一の業務に従事しているにも関わらず賃金等の労働条件において差異があることが労契法20条に違反するとして、本給・賞与、各種手当、退職金及び褒賞の正社員との差額を請求した。正社員は、年齢給と職務給のほか一律に支給される住宅手当など諸手当からなる月額給与と、年二回支給される賞与、勤続年数と年齢給及び職務給月額から算定される退職金が支給されるが、契約社員Bは、時給1000円、住宅手当なし、賞与は年二回12万円の定額、退職金はなしという相違があった。

<判旨>
 … 控訴審は、まず比較対象労働者につき、正社員全体と比較することになれば、売店業務のみに従事している契約社員Bとは職務の内容が大幅に異なることになるからそれだけで不合理性の判断が極めて困難になるとして、比較対象を売店業務に従事する正社員(18名)に限定した。そのうえで、原審で不合理性を否定されたもののうち、住宅手当、退職金、褒賞についても不合理性を認めた。特に退職金については、「一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって無期契約労働者に対しては退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事施策上一概に不合理であるということはできない」としつつ、本件では、契約社員BといえどもXらのうち二人は10年前後の長期間にわたって勤続していること、契約社員Bと同様に店舗の販売業務に従事している契約社員Aの中には、職務限定社員に名称変更されて退職金制度も適用されている者がいることなどからすると、「少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(退職金の…複合的な性格を考慮しても、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1はこれに相当すると認められる。)すら一切支給しないことについては不合理といわざるを得ない。」との判断を示し、約45万円ないし約50万円の退職金相当額を損害額として認定した。

 

*この点、政府の「ニッポン一億総活躍プラン」資料が示す通り…

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/

上記「介護ゼロの実現」資料より

 

 「欧州各国に比して、正規労働者と 非正規労働者の賃金格差が大きい」「フルタイムに対するパートタイムの 賃金水準: 日56.6%米30.3%英71.4%独 79.3%仏89.1%伊70.8%蘭 78.8%丁70.0%典83.1%」であり、

 

 「月例給与+月例諸手当;賞与」(退職給付を除く)の比較で言えば、現行法下でも比較対象となる正規職員の範囲を限定する前提で、「最低60%~最大80%」程度が今後の「不合理判定ライン」になると、筆者は想定(覚悟)しています。

 

3.(私見)新法の主旨が「同一企業内における、正規雇用者と非正規雇用者の間の、不合理な処遇格差の是正」という意味なら理解できるし、推進すべきであると思う。

 

つまり「同一労働・同一賃金」などという「政治的なメッセージに」惑わされず、

 

1)あくまで同一企業(事業主)内の問題に限定するという意味なら分かる・出来る。

2)短時間・有期職員の処遇改善を行うという意味味なら分かる・出来る。

3)通常の職員と短時間・有期職員の間の違いをふまえつつ、両者の間の不合理な格差を是正するという意味なら分かる・出来る・やるべきだと思います。

 

4.(私見)ではいったい何のためにそうした「不合理な格差の是正」を行うのか?

 

 つまり、本来、労働市場の需給関係や、労使間の個別交渉に委ねられて良いはずの処遇条件が、法的な強制力をもって是正されなければならないのかについては、法令やガイドラインやマニュアルに準拠しつつも、事業主としての考えカを定めて取り組むべきでしょう。

 

1)最低賃金と同様の趣旨において(最低限の処遇の法的な「保障」として)

2)労働市場や労使交渉への介入として(著しく不利な一方当事者への法的支援として)

3)上記を超える部分(均等・均衡原則)はどう理解すれば良いでしょうか?

 ① 政府の政策として(成長と分配の好循環として…体制や政権維持の柱として...?)

 ② 企業としての労働の効率化・高度化と分配の適正化・好循環として…?

 ③ 企業としての処遇改善(働きやすさと働きがい)・採用力の強化策として…? 

 

5.(私見)では例えば「基本給」における「不合理な格差の是正」をどのように進めれば良いか?

 

1)「通常の職員」(以下「一般職員」という)とそれ以外の「短時間・有期職員」とで、処遇・賃金体系を各別に規程化する。

 

 ①一般職員処遇・賃金体系

 …「長期育成型(キャリアアップ型)」の処遇・賃金体系として規程化する。

 ②短時間・有期職員処遇・賃金体系

 …「短時間型」「有期型」「短時間・有期型」等の処遇・賃金体系として規程化する。

  

2)その上でまず「一般職員」の処遇体系(「職種」と「等級」)を規程化する。

 

 「職種区分」のもとで、例えば「経験」や「能力」に応じて処遇するとしても、そもそも「経験」や「能力」をどう評価するかが問題です(「経験の年数」や「試験の点数」などでなく。ただし可能な限り「客観的に合理的」に…)

 

 そうすると実務的には、下記のように「職種区分」と「職能・職務・職位等級」に類型的に「経験の程度」や「能力の程度」を、可能な限り「客観的かつ合理的」な方法で「判定」するしかないでしょう。

 

<「職種・等級」の例>

 職種区分 ***職

 等級(ここでは「職能・職務・職位」を統合した「等級」を想定)

  1(具体的指示に基づいて基本的な業務を正確・迅速・丁寧に遂行する)

   … 概ね「新卒採用後5年未満の実務経験」を想定。

  2(包括的指示に基づいて判断力を発揮しながら業務を遂行する)

   … 概ね「新卒採用後5年以上10年未満の実務経験」を想定。

  3(方針的指示に基づいて指導力を発揮しながら業務を遂行する)

   … 概ね「新卒採用後10年以上の実務経験」を想定。

  4(小規模組織のマネジメント機能またはそれに相応する専門性を発揮する)

  5(中規模組織のマネジメント機能またはそれに相応する専門性を発揮する)

  6(大規模組織のマネジメント機能またはそれに相応する専門性を発揮する) 

 

 実務的には上記の「等級」の区分をさらに詳細に区分しても良いでしょう。また、職種ごと・等級ごと、さらに個人ごとに「職務記述書」を作成して交付しておくことも「職務の同一性(非同一性)」の判断基準になるでしょう。

 

3)「一般職員」の職種別・等級別の基本給を規程定する。

 

 基本給は上記の職種別・等級別に一定額(シングルレート)としても良いでしょうし、毎年の人事評価に応じた「昇給」を想定するなら、範囲額(レンジレート)や、公務員の給料表のように段階的な号給制にしても良いでしょう。

 

 上記1)および2)は、「一般職員」を対象とする処遇体系(キャリアアップ処遇体系)として、「短時間・有期職員」を対象とする処遇体系(短時間・有期職員処遇体系)と区分して規程化しておくべきでしょう。

 

4)その上で「短時間・有期職員」の処遇・賃金体系を規程化する。

 

案_但し、「短時間・有期職員」の処遇・賃金体系の適用は「勤続5年未満」の職員に限定する。

 

 つまり、「短時間・有期職員」については「勤続5年以上」を想定しない。つまり「処遇の比較対象」となる「一般職員」の範囲を「等級1の一般職員」に限定し、「短時間・有期職員」の「不合理な処遇格差」を解消しようというのが筆者の意図です。

 

案_また、「勤続5年以上」となる「短時間・有期職員」には、個別選考のうえ、「一般職員」の処遇・賃金体系で処遇する。

 

 「短時間・有期職員」との契約を反復継続した場合でも継続勤務期間が5年未満の場合はあくまで「短時間・有期職員」体系での処遇とするが、継続勤務期間が5年以上となるような場合は、「一般職員」の処遇体系を適用する。

 

 但し、企業として、上記「一般職員」としての組織的な『必要』があり、本人の『希望』があり、両者が『合意』することを要件とする。(企業内募集と見るなら『募集-応募-合格』の三要件です。この点は「一般職員」処遇体系での「昇級要件」と同期させる。)

 

案_上記を前提として「短時間・有期職員」の処遇・賃金体系を規程化し、「一般職員」の処遇・賃金水準との間に「不合理な格差」を生じないようにする。

 

 但し「短時間・有期職員」については「一般職員」とは異なり、長期の(ここでは5年を超える)キャリアアップ型の処遇や賃金を想定しない。したがって「職種」区分および「職能・職務・職位」等級の異動を予定しない。

 

 いわゆる「臨時・パート職員」型の雇用については「一般職員」の等級1の職能・職務・職位、責任の範囲や指示の程度等を超えず、したがって「一般職員」の等級1の基本給の水準を超えない。(定年後再雇用職員などの「嘱託職員」型の基本給は各人別に設定。)

 

 以上の前提で「一般職員(私見では等級1一般職員に限定)」の処遇・賃金水準と「短時間・有期職員(勤続5年未満)」の処遇・賃金水準との間に「それぞれの処遇・賃金体系の格差に応じた処遇・賃金水準の格差」を「不合理」でなくすることです。

 

 もちろん経営的には「同一賃金(不合理な賃金水準格差の解消)」のためには、「非正規職員のベースアップ」だけで事が済むわけではなく、上記のような雇用形態別の処遇・賃金体系の再編・規程化が必要であり、同時に企業体としての収支改善が必要です。

 

*病院の収益改善については引き続き病院の働き方改革懇談会において具体的な実践事例を取り上げます。

 

6.(私見)では具体的に例えば「賞与」「退職給付」「家族手当」「住宅手当」どのように扱えば良いのか?

 

案_「賞与」は「事業の業績」×「事業業績への貢献度」に応じて支給することとし、対象者を「勤続5年以上かつ職務等級2以上の一般職員」とし、「それ以外の職員」については従来の原資をもとに賞与時期に「一定額の手当」を支給することをもって代える。

 

案_「退職給付」は「勤続5年以上かつ職務等級2以上の一般職員に支給する」とともに「それ以外」の職員については、その原資を「それ以外の職員」の「基本給」の昇給原資に繰り入れる。

 

案_「家族手当」と「住宅手当」を廃止し、その原資を職員の「基本給」の昇給原資に繰り入れる。その他の諸手当は既出「ガイドライン」および「マニュアル」に記載のとおり、「その目的・趣旨」を明確にしてそれに応じて支払う。

 

*「賞与」「家族手当」「住宅手当」に関する判例

* 井関松山製造所事件(松山地裁_20180424)(高松高裁_20190708)

<事案>

 正規職員には36~39万円ほどの賞与が支給され、家族手当や住宅手当も支給されていたが、非正規職員には賞与は支給されず、5万円ほどの寸志が支給され、家族手当や住宅手

当が一切支給されていなかった。

<判旨>

 賞与については、将来上位職制に就任する可能性がある正規社員に対して、より高額な賞

与を支給することで有為な人材の確保とその定着を図ることに合理性があると判断。非正規職員には5万円ほどの寸志が支給されており、中途採用制度により非正規職員から正規職員になることが可能であり、その実績もあることから、賞与についての格差は不合理とは認め

られず。

 家族手当は,生活補助的な性質があり、労働者の仕事内容とは無関係に扶養家族の有無・属性・人数に着目して支給されていることから、扶養家族がいることで生活費が増加することは正規職員でも非正規職員でも変わらず、正規職員にだけ家族手当を支給しているのは不合理と判断。

 住宅手当についても、住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化して費用負担を補助するものであるから、非正規職員であっても住宅費用を負担する場合があるので、正規職員にだけ住宅手当を支給しているのは不合理と判断。

 

 高松高裁は2019年7月8日、一審に続き手当の不支給を違法と認め、5人分の計約300万円の支払いを命じた。

 

*大阪医科大学事件(大阪高裁_20190215)

<事案>

 正社員には通年で4.6ヶ月分の賞与が支給され,契約社員には正社員の賞与の8割に当たる額の賞与が支給されていたが、原告のアルバイト労働者には,賞与は支給されていなかった。

<判旨>

 賞与の性質について…基本給にのみ連動するものであり、労働者の年齢や成績に連動するものではなく、大学の業績にも一切連動しておらず、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものと判断。

 付随的には長期雇用へのインセンティブという趣旨も含まれており、正社員とアルバイト労働者とでは,実際の仕事内容も採用の際に求められる能力にも相違があり、アルバイト労働者の賞与算定期間における功労も相対的に低いことから、アルバイト労働者の賞与の金額を正社員と同額にしなければ不合理とまではいえず、正社員の賞与の60%を下回る支給しかしない場合に不合理になると判断。

 

*メトロコマース事件(東京高裁_20190220)

<事案>

 東京メトロの売店で働く非正規雇用労働者が、売店を経営する株式会社メトロコマースに対し、本給・資格手当・住宅手当・賞与・退職金・褒賞・早出残業手当に相違があることは,労働契約法20条に違反すると主張。正社員には退職金が支給されていたが,非正規雇用労働者には退職金が支給されていなかった。非正規雇用労働者の労働契約は原則として更新されており、定年が65歳に定められており、原告の労働者らは定年まで10年前後の長期間にわたって勤務しており、原告らと異なる契約社員には退職金制度が設けられた。

<判旨>

 退職金について…長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金を原告ら非正規雇用労働者に一切支給しないことは不合理と判断。

 退職金のうちの長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分について、正社員と同一の基準に基づいて算定した退職金の額の4分の1であると判断し,正社員の退職金の4分の1を非正規雇用労働者にも支給するように命じた。