「働く人たちを評価する」ということは、「難しい」と言うより、「人間的にも社会的にもハードルが高い」と言う方が良いかも知れません。そこには高い見識や深い思慮や豊かな経験が必要だろうと思います。「畏れ多い所業」です。
人事評価は、裁判が証拠に基づいて行われるのと同じ意味において、被評価者の日頃の「仕事ぶり」と「仕事の成果」に対する、観察と記録に基づくものでなければならず、「心構えの高さ」とともに「身構えの低さ」が必要です。
<人事評価7則・私案>
① 目的なければ評価なし(「何のために人事評価を行うか?」)
組織的なコミュニケーションを促進し、人を動機付け、人の成長を促進することが人事評価の目的であると、筆者は思います。
② 目標なければ評価なし(「こうしてほしい」「こうあってほしい」の期待)
評価に「基準が不明確だ」という批判や非難はつきものです。しかし、評価の基準は、評価者と被評価者の対話から生まれるのです。
③ 観察なければ評価なし(「仕事ぶり」と「仕事の成果」の客観的把握)
証拠が無ければ裁判ができないのと同じです。本人の、日頃の、仕事ぶりと仕事の成果をよく観察していれば、評価は自ずと定まるはずです。
④ 指導なければ評価なし(日頃の指導の積み重ねの結果としての人事評価)
観察を通じて気付くことがあれば、黙っていないで本人にアドバイスするのは誰でも当たり前です。それ無しに後から評価をしても意味がありません。
⑤ 信頼なければ評価なし(評価者と被評価者の間の意思疎通と信頼関係)
評価への不信や不満のほとんどは、評価者への不信や不満です。評価者とのコミュニケーション、価値観や目的観が通い合う対話が無いからです。
⑥ 責任なければ評価なし(「育成責任」の無いところには成り立たず)
「評価」と「評判」「批評」は違います。「評価」には「育成責任」が伴います。「評判」や「批評」は「育成責任」を負いません。
⑦ 成長なければ評価なし(動機付けと成長の促進に繋がらなければ無意味)
日頃の観察と指導に基づく評価とその適切なフィードバックがあってこそ、本人の動機付けと成長の促進につながります。
<追稿_評価よりも承認と感謝>
1.部下からの報・連・相を「歓迎」しているか?
ある管理職は、報告・連絡・相談のために部下が自分の部屋に「ちょっといいですか?」と言いながら入ってくるときに、「良いよー!」と言うのを口ぐせにしていました。
上司が部下を評価しようとする前提として、両者の間に上記のような「モノが言いやすい」関係が必要であり、必要な報告・連絡・相談による組織の情報の流れが、人体で言えば血液のように、何の滞りもなく通い合う関係性が必要です。
2.部下への期待感を伝えているか?
例えば松下幸之助は「モノをつくるんやのうて、ヒトをつくりなはれ」と言ったと伝えられています。同氏はその他に「人事異動を考えるときはいく晩もその人のことを考える」と言ったそうで、その言葉は今でも筆者の指針です。
人事評価は、その組織の目的や価値に沿った構成員への期待感(「こうしてほしい」「こうあってほしい」)を基準に行われるべきものです。(その意味で「評価基準が明確でない」組織は「目的や価値が明確でない」組織です。)
3.部下をRespect(尊重)しているか?
人事評価「以前」の問題として確認すべきことは、上司(評価者)と部下(被評価者)が相互をリスペクトしているかどうかということです。相互間にリスペクトの関係性が無ければ、評価の信頼性も妥当性も納得性も成り立ち得ません。
部下を呼び捨てにしたり、雑用係のように使ったり、挨拶もろくに返さない、有難うのひと言も無い…というような上司のビヘイビアが、部下からのRespectを得るはずがありません。
4.「人事評価」は「evaluate」か?
「人事評価」を英訳すると「Personnel evaluation」ですが、これはさらに和訳すると「査定」?…これは何らかの「尺度」を、何か(人事評価の場合は、例えば人の行動やスキルや成果)に当てはめて測定するという意味でしょうか。
しかし、身長や体重を測るのと同じようには、また学校の成績評定と同じようには、企業活動における人の行動やスキルや成果を測ることはできません。それは次のようないくつかの点においてです。
① あらかじめ絶対的な「尺度」があるわけではないから。
… 人事評価に「メートル原器」や「キログラム原器」や、あるいはそれらに代わる何らかの絶対的な「尺度」があるわけではありません。「尺度」があるとしたら「こうしてほしい(こうであってほしい)」という「期待感」です。
② 求められているのは「解答」ではなく「解決」だから。
… 学校の試験なら「試験問題」が「問題や課題」ですが、企業における「問題や課題」は「考え得る諸現実や諸状況や諸条件の全て」です。求められるのは一問一答式の「解答」ではなく「現実的な問題や課題の発見と解決」です。
③ 現実には「定量化」しきれないもののほうが多いから。
… 例えば「目標管理」における「目標」をあらかじめ「定量化」したり「データ化(ゼロイチ化)」できれば「目標達成度評価」がずいぶん単純明快になりそうですが、スーパーコンピューターでもないかぎり現実には無理です。
④ はっきり言ってしまえば「人事評価」は「主観的」なものだから。
… 裁判は客観的な事実(証拠)に基づいて行われこそすれ、それをどう評価するかは裁判官の心証次第であり、しかも、少なくとも民事裁判では、「正しい判決」よりも「納得の行く和解」によって「解決」がもたらされます。
人事評価も日常的な記録と観察と指導に基づいて行われこそすれ、それに基づいてどのような評価を行うかは、評価者の権限と責任に属する事項です。人事評価に期待されるべきは、「信頼性・妥当性・納得性」です。
5.人事評価とはむしろ「appreciate(感謝)」や「approve(承認)」ではないか?
① コミュニケーションとモチベーションを伴わない人事評価の弊害
… 目標管理も人事評価もコミュニケ―ションとモチベーションのしくみです。コミュニケーションとモチベーションを伴わない目標管理は単なるノルマ主義、人事評価は単なる選別主義に脱します。
② フィードバックを通じた動機付けと成長の促進こそ人事評価のいのち
… フィードバックこそ人事評価のいのちです。高い評価や肯定的な評価をフィードバックすることは比較的容易ですが、低い評価や否定的な評価をフィードバックして被評価者の動機付けや成長促進につなげることはより困難で重要です。
③ 人事評価はむしろ、「appreciate(感謝)」や「approve(承認)」
… 低い評価や否定的な評価をフィードバックして被評価者の動機付けや成長促進につなげることが必要であるとしたら、「尺度で測ってその値を伝える」式のフィードバックでは無理です。
… もちろん、不法・不当・危険な言動や態度は、その場で禁止しなければなりませんが、そうしたことであってさえ、あらかじめ、そうしたことがなぜ不法・不当・危険なことであるかを十分に伝えておく必要があります。
… 本人がどのような状況や理由や背景で、そうした不法・不当・危険を冒したのかについての観察と理解が必要ですし、その場で即刻行うべきことは、そうした言動や態度の禁止であって、本人を「禁止」することではありません。
… その事業や組織の目的や価値に反することや組織の協働性や構成員の成長に反することに対しては、否定的な評価を行い、それを被評価者の気付きと動機付けと成長につながるようにフィードバックしなければなりません。
… そのように考えると、やはり「人事評価」の基礎には、「基準へのあてはめ」のほかに「appreciate(感謝)」や「approve(承認)」がなければならないでしょう。「泣いて馬謖を斬る」の「泣いて」の一部でしかないかも…
<追記_20200820>次の「エピソード」は何を言い表しているでしょうか?
美空ひばり:あたしさあ、さゆりちゃんのファンだから言うけど、あの唄のあそこは、例えばもうちょっとこういうふうに~♪~唄ったら、お客さんたちはも
っとグッとくるんじゃないかと思うのよね~
石川さゆり:あっ、ありがとうございます!!!
*何をもって「評価の尺度」とするか?
*評価とそのフィードバックとはどのようなものか?
*それは誰が誰に行うべきことか?