20190522_「もしドラ」に学ぶ目標管理制度

 

 発表から既に10年近くがたちますが、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という岩崎夏海氏の小説は、筆者にとっても(先日お会いしたS看護副部長も同感)「三回以上泣ける不朽の名作」です。

 

 「感動」(「感動」は上記の作品のテーマでもあり価値でもあります。)のポイントはいくつもありますが、以下に、人事制度としての「目標管理」に関して筆者が改めて啓発を受けた点を例示します。

 

1)MBOは「目標管理」と和訳されるべきではなかった?

 

 筆者自身はいまだにドラッカーの言うMBO(Management by Objectives)が「目標管理」と和訳されていることに違和感を感じています。「Objectives」 という言葉が、「目標」に対置されるのがどうも「気に入らない」のです。

 

 そもそも「Objectives」を直訳すれば「目標」というより「対象」であって、それは何の「対象」かと言えば「働く人たちにとっての動機付けの対象」であり、「働くことを通じて実現される人間的・社会的な諸価値」のことだろうと思うのです。

 

2)「目標」とは「価値の実現」

 

 例えば上記の作品ではそれを「感動」としており、「高校野球」の観客にとっての感動だけでなく、選手やコーチや監督やスタッフほか、多くの「高校野球」に関わる人たちにとっての「感動」です。この「感動」という価値の実現こそが「目標」なのです。

 

 例えば病院にとっては「患者や家族の健康や安心や喜び」が「価値」であり、それを実現することが「目標」であるはずです。ですから、MBOの「Objectives」とは、そうした価値が実現された状態のことを指すのだと、筆者は考えます。

 

3)「目標管理」は「協働管理」&「自己管理」

 

 また、ドラッカーの言うMBOは「Management by Objectives and Self Control」なのであって、「目標」が「ノルマ」のように上から押し付けられるものではなく、働く人たち自身が信じる価値の実現に向けて自らを内発的に動機付け、自己管理することです。

 

 その意味においても筆者は、多くの場合、MBOが「目標管理」と和訳されていることには不満で、少なくとも上記の作品のように「自己目標管理」(「協働目標管理」であると同時に「自己目標管理」)と和訳されなければならなかったはずです。

 

4)価値も目標も多元的

 

 またそうした「価値」の置きどころはまさに「人それぞれ」であって、たとえひとつの企業や組織の中であっても唯一絶対の「永久不変の価値」などというものは存在しえず、たまたまその企業や組織や成員が判断し、選択したひとつの価値でしかありません。

 

 ただ、例えば「人間が人間らしく生きること」「人間が人間らしく働くこと」「人間が人間らしいということ」こそは、おそらく人間にとっての普遍的価値であろうことには違いなく、個別具体的な諸価値は「人間らしさ」を原点とする座標軸上にあるのだと思います。

 

5)イノベーションとは新たな価値の実現

 

 人間にとって何が「より人間らしい」かは、「時代(人間社会の歴史的発展段階)」によって異なり、企業や組織がそのなかから何を選びとって自らの目標たるべき価値として掲げるかは個々様々です。

 

 イノベーションとは「生産手段の技術革新」のことかと筆者自身も狭く理解していたのですが、ドラッカーが言いたかったことはそうではなく、おそらく「より人間らしさに満ちた新たな価値の実現」のことなのだろうと思います。