3_3.MBO目標管理制度の設計と運用(MBOで動機付ける)

1.MBO(Management by Objectives and Self Control)の本来的意義

 

 ドラッカーが提唱したMBO(Management by Objectives and Self Control)は、わが国では「目標管理」と訳されてしまっており、そのせいもあっていわゆる「ノルマ主義」と混同したような運用が見られるのはたいへん残念なことです。

 

 ドラッカーが言うMBOの意義は、同じくドラッカーが言う「組織とは…」の定義ほぼそのものです。つまり、MBOは「組織的活動」そのもの(「組織的協働」そのもの)であるとドラッカーは言っているように、筆者には思えます。

 

<ドラッカーによる「組織」の定義>(出典:「P・Fドラッカー経営論集」(ダイヤモンド社))>

 ① 共通の目的と価値へのコミットメントを必要とする。

 ② 組織とその構成員が必要と機会に応じて成長し、適応していかなければならない。

 ③ あらゆる種類の仕事をこなす異なる技能と知識をもつ人たちから成る。

 ④ 構成員は、自ら成し遂げるべきことを他の構成員に受け入れてもらう。

 ⑤ 成果はつねに外部にあり、測定・評価・改善されなければならない。

 

(以下、筆者私見です)

 

 ① そもそも企業とは、一定の共通的な人間的・社会的な目的を達成したり、価値を実現したりすることに動機付けられた人たちの組織協働体であるはずですので、その構成員に共通の目的の達成や価値の実現へのコミットメントは「当然」です。

 

 ②③ また、組織の構成員が組織の目的や価値にコミットするためには、それ相応の技能や知識を持ち寄り、また共同性や社会性を持ち寄り、さらにそれらを高めること(=成長と適応)についてもコミットメントが求められるのも「当然」であるはずです。

 

 … しかし、現実には、必ずしも組織の目的や価値にコミットせず、意識的な成長も適応もなく、特段の技能と知識も持たず、ただ組織に「従属するだけ」のように見える人たちも、「ことがらの半面」としては組織を構成しているのでしょう。

 

 ④ いずれにしても少なくとも「組織の目的や価値」にコミットし、「成長や適応」を続け、「技能や知識」を高めようとする人たちにとっては、MBOはまさに「組織的協働」そのものであって、各自のミッションの受容と尊重も「当然」のひとつです。

 

 ⑤ そうした構成員が組織的協働を通じて「(組織の内に向かってではなく)組織の外に向かって」成果を発し続けることと、その成果をP-D-C-Aサイクルを通じて測定・評価・改善することが組織管理でありMBOそのものです。

 

2.MBO目標管理制度の運用上の問題事例

 

 上記のような趣旨(「組織的協働=MBO」という趣旨)にも関わらず、その名の下に実際に企業に導入されたはずの「目標管理制度」には、現実的にはいくつもの問題があるはずです。例えば次のような問題事例が筆者の身の回りにもあります。

 

 ① 目標設定が「個人的」で、組織共通の目的と価値へのコミットメントになっていない。

 

 … 組織を構成する個々人の目標設定が組織的目標と「関わりなく」(「個人的に」)行われており、組織的目標(組織の目的や価値)へのコミットメントになっていない。または単に組織的目標がノルマとして配分されているだけで個々人のコミットメントがない。

 

 ② 組織的目標の共有化も不十分で、個人的目標の相互理解・協力も行われていない。

 

 … 組織的目標を設定する過程でのコミュニケーションが不足し、組織的目標が「一方的な」トップダウンまたは「言いっ放し」のボトムアップに終わっており、組織を構成する個々人の理解も支持も得られていない。

 

 ③ 個人の成長と組織の成長がWin-Winになっていない。

 

 … 組織を構成する個々人は例えばその「技能や知識」を高めることを通じて組織の目的や価値へのコミットメント(貢献度)を高めようとするのが「当たり前」のはずが、職務目標に関係のない能力向上目標が掲げられるなど。

 

 ④ 設定目標が抽象的で達成度評価になじまない。

 

 … 例えば「コミュニケーション能力の向上に取り組む」という目標設定をしも、その進捗度や達成度を評価できない(本人自身にもできない)。コミュニケーション上のどういう問題に悩んでいて、それをどうしようとしているのかという記述が最低でも必要。

 

 ⑤ 手段が目的化してしまっている。

 

 … 例えば「職員の能力を向上する」ことの手段のひとつとしての「研修会の開催」が目標になっていて、さらにその「開催回数」が目標になってしまっているなど。安易な「定量的目標」の設定が陥りがちな傾向のひとつ。

 

3.MBOで働く人たちを動機付けるために

 

 ① 設定目標の共有化

 

 … 企業の経営者や職場の管理職は、自分の企業や職場が何を目的として達成し、何を価値として実現するべきかを情報発信すべきです。それを受けて、企業や組織の構成員は自分たちは何をすべきかを議論し、共有化すべきなのです。

 

 筆者が「目標管理制度」を導入した企業では、個人ごと・年度ごとに「3つの目標設定を行う」ことにしましたが、「企業全体の目標や所属組織の目標を踏まえて、職場や上司と良く相談しながら目標設定をして下さい」と言いました。

 

 ② 目標記述の状態表現

 

 … 目標設定は進捗度や達成度の評価のためには「定量的」であることが望ましいのですが、それに拘りすぎて、例えば「能力向上目標」に「教育受講回数」を掲げるのは誤りです。「期首のどういう状態」を「期末のどういう状態」にしたいかを記述すれば良いのです。

 

 これを「目標記述の状態表現」と言います。例えば「能力向上目標」としては、「期首時点では~ができる(できない)」状態を、「期末時点では~ができる」状態にする、ということを具体的に(進捗度や達成度を第三者が評価できるように)記述すれば良いのです。

 

 ③ 「業務上の目標」と「能力向上目標」

 

 … 誰にでも「もっとこうしたい」と思っていることがあるはずです。例えば「もっと効率を上げたい」「もっと品質を上げたい」と思っていることです。それを「期首のどういう状態」を「期末のどういう状態」にしたいかを記述れば立派な「業務上の目標」になります。

 

 また、そのためには「もっとこうありたい」という自分自身の能力の向上や、仕事上の人間関係の改善が目標になる場合があるはずです。それを「期首のどういう状態」を「期末のどういう状態」にしたいかを記述すれば立派な「能力向上目標」になります。

 

 ④ 「~ためには」「~ためには」という発想と「何のために」「何のために」という発想

 

 … 「もっとこうしたい」「もっとこうありたい」という思いを実現する「ためには」何をしなければならないか、さらにその「ためには」何をしなければならないかと「逆算」して考えれば、現時点で(いつまでに)何をしなければならないかが明らかとなるはずです。

 

 また、「それは何のためか」「それは何のためか」と「遡及」して考えれば、達成すべき本来の目的や実現すべき本来の価値に行き当たるはずです。それを「目標」として掲げ、そのためにはいつまでに何をどうするかを「計画」として提示すれば良いのです。

 

 ⑤ 目標は日常業務で常に念頭に置いて…

 

 … 期首に設定した目標が、期中に忘れ去られ、期末に思い出される、というのでは全く意味がありません。(そうなるのは、目標設定が日常業務からかい離している証拠であり、せっかくの制度が形骸化している証拠です。)

 

 「何を目標に掲げて日々の業務に取り組むか」がMBOです。「目標(または目標状態)」は常に本人の念頭にあり、日々の努力を重ねて実現に至るものです。また、同時に常に上司の念頭にあり、日々の支援を重ねて実現に至るものです。

 

 総じて言えば「せっかく仕事をするならより良い仕事をしよう」とか、「目標をもって仕事をしよう」とか、「向上心を持って仕事をしよう」とか、我々が普段、健全な心身の状態で思うところのものに自らを動機付けるのがMBOなのです。

 

 また、ドラッカーは「and Self Control」と言っており、この「Objectives」は、あくまで本人が組織的な目的の達成や価値の実現に向けてどのように「コミットメント(Commitment)するか」という主体的意思や意欲の表明でなければなりません。

 

  MBOとは「組織的協働」に向けた動機付けであり、「組織管理」そのものです。読者の職場で「目標管理制度」という名のMBO制度が導入されているなら、ぜひその本来の趣旨を生かした運用を行ってみて下さい。

 

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