Q_医師の年俸制については下記の判例を承知していますが、制度化や導入・運用上の実務的な進め方や留意点等についてアドバイスお願いします。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/348624.pdf
A_以下に実際の導入事例に基づいて留意点を記します。
(1)年俸制の対象者を明確にすること
先ず、労基法上の「管理監督者」に該当するか、またはこれに準じるような立場の医師なら、まさに「年俸制」の趣旨に相応しいと言えるでしょう。導入事例の病院では「診療各科の部長以上の医師」としました。
つまり、導入事例の病院では、研修医・医員・主任医員・医長については、年俸制の対象者とはしませんでした。やはり「指揮命令に基づいて労務に服する」立場の医師には、実働時 間どおりに、法令どおりの時間外割増賃金を支払うほうが良いと思います。
また、診療各科の繁忙状況によっては、実働時間どおりに、法令どおりの時間外割増賃金を支払うほうがフェアであり、本人の希望にも沿う場合がありますので、部長医師については個々に繁忙状況と希望を聴取して適用判定しました。
(2)法定の割増賃金制との「比較」をしながら適正な導入と運用を行うこと
明らかに「管理監督者」と言える対象者の場合以外は、「もしその対象者に法定の割増賃金を支払うとすればいくらになるか?」という比較検討を年俸制の導入前・導入後に行いました。
つまり、現に今まで法定の割増賃金制の適用対象者であった医師に、新たに年俸制を適用しようとする際には、今までの時間外勤務の実績と割増賃金等を含む年間の給与総額に応じた年俸設定をすべきです。
その水準は、診療科によって、また医師によって異なるのが当然です。(だからこそ年俸制の意義がある。)また、年俸制に移行した後も、時間外勤務の実績自体は引き続き管理が必要であり、問題があればいつでも法定の割増賃金制に復するようにしました。
(3)年俸改訂は目標管理制度における実績評価を通じて
導入事例において年俸制の対象とした医師は、「診療各科の部長以上の医師」としましたので、同時に目標管理制度の対象者でもありました。その際に留意した点は下記のとおりです。
① 導入事例においては、理事長・病院長と話し合い、目標管理制度における目標軸および評価軸を次のように設定しました。
基本的な目標軸・評価軸 『病院事業への貢献度』
より具体的な3つの目標軸・評価軸 1)医療業績への貢献度
2)医療の質への貢献度
3)組織運営への貢献度
② 目標設定は日次・月次・年次の業務報告とリンクして診療各科の責任者に行っていただきました。その病院では主要な管理部門長による毎日の報告や、毎週の経営会議、毎月の運営会議が実質的に定着・機能していましたので資料や指標をリンクさせました。
③ 上記に加えて毎年1回、理事長・病院長と、診療各科の責任者との間での、個々に業績レビュー面談の場を設定し、当年度の実績評価、次年度の目標設定について、お互いの認識合わせを行いました。
④ 上記の面談を通じて、理事長・病院長に、前記①の評価軸による五段階評価を行ってもらい、その評価に応じて、あらかじめ想定した年俸改訂原資を次のように傾斜配分しました。(「一人当たりの平均原資」は評価分布に応じて総原資額内で算定。)
S評価 一人当たり平均原資×1.2
A評価 同上×1.1
B評価 同上×1、0
C評価 同上×0.9またはマイナス改定
D評価 同上×0.8またはマイナス改定
⑤ 賞与や退職金の扱い
上記によって年俸額が決まれば、あとは年間を通じた支払時期と支払い金額の問題ですので、導入事例の病院では、年俸額÷16の額を毎月(月給制職員の給与支給日)、年俸額÷16×2の額を年2回(月給制職員の賞与支給日)に支給しました。
退職金制度は年俸制導入後も、敢えて旧制度を存続させました。つまり、旧制度における「基本給」は「退職金算定基礎額」として年功的に改定し、退職時の勤続年数と退職事由に応じた係数を乗じて算定することとしました。