以下は、筆者自身が「人事評価制度」を導入した企業での「人事制度の形骸化現象(およびその兆候)」です。
例1)評定ごとの「分布制限の目安」を設けない、または無視する。
… 「人事評価」には「分布制限」をセットにすべきです。つまり、例えばS-A-B-C-Dという五段階評価制とするなら、例えばSを5%、Aを15%、Bを60%、Cを15%、Dを5%とするなど、同一の評価母集団ごとに分布制限をかけるべきです。
その理由は、「人事評価(およびそれに基づく昇格・昇任や昇給・賞与)の原資は有限だから」であり、「人事評価とは、昇格・昇任や昇給・賞与という有限の経営資源を最適に配分するための基準だから」です。
ある企業では、この分布制限をかけなかったばかりに、「5割以上がA評価」という結果になっていました。「うちの職員は皆優秀だ」とでも言いたいのでしょうか。それとも「昇格・昇任や昇給・賞与の原資は(税金のように?)無尽蔵に沸いて出る」のでしょうか?
例2)やはり年功序列的に運用してしまう。(もしくは極端に非年功的に運用してしまう。)
… ある企業では「年功制の弊害を是正する」という意図をもって「人事評価制度」を導入しました。もっとあからさまに言うと、その企業では「(年功制では)仕事もしない(できない)人が偉くなる」という不満があったからです。
筆者自身は決して「年功制」を否定する立場ではありません。それが「年々歳々、功多く、徳高い人」を高く遇しようという制度なら、それほど人間的な制度はないとさえ思っています。(ところが現実には「年数」と「功や徳」が比例しないところに問題がある。)
したがって「人事評価制度」は、「年功序列秩序」をベースにしながらも、それが弊害を生じる恐れがある場合に、それを是正(または修正)する制度として、その範囲で運用すれば良いと思っています。(年功制を追認しては意味がなく、破壊してはいけない。)
例3)不用意な評価がかえって被評価者の不信と不満を招く。
… 「人事評価」は、評価者(上司や管理監督職)にとって、上手く使えばひとつの有効な「マネジメントツール」になり得ます。しかし(当たり前ですが)下手に(不用意に)使うとこれがかえって部下の不信や不満を招く結果にもなり得ます。
筆者が「人事評価制度」を導入した企業で被評価者向けのアンケートを採ったところ、人事評価制度や人事評価そのものへの不信や不満より、「上司(評価者)への不信や不満」が溢れ出す結果となり、「人事評価制度以前」の問題の根深さを感じました。
上司(評価者)と部下(被評価者)との間に、何よりも先ずは「双方向のコミュニケーションに基づく信頼関係」が成り立ち、上司-部下間の目標共有と、上司による観察と指導が無いところでは、人事評価が有効に成り立つはずがないのです。
例4)本人や上司の「自己認識」が足りないうちに「人事評価」が先行する。
… 「自分はこんなに頑張っているのに、上司は少しも分かって(観察・理解・評価して)くれない。」という被評価者の不満の原因のひとつは、「組織的協働の中に自分を対自的に置いて見る」という自己認識の不足です。
こうした本人の自己認識の不足と人事評価への不満を放置すると、やがて「やってもやらなくても(どうせ評価されないなら)同じ」という制度の形骸化につながりますので、こうした認識のギャップこそ、上司-部下間の面接を通じて是正すべきです。
もちろん、上司(評価者)の側にも、その部下を評価する際に、時間軸においても過去多くの同レベルの部下を評価・育成した経験が必要ですし、空間軸においても企業全体の中で自分の組織や自分の部下の貢献度を適確に評価できる視点が必要です。
例5)「人事評価への記入」が「人事評価それ自体」が行われない。
… 「評価は独りでするな、一度でするな」というのが鉄則で、その鉄則に基づくからこそ、例えば「自己評価に基づく評価」のしくみがあり、「直属上司-上位上司による二段階評価」のしくみがあるのにそれを無視または軽視する。
「評価者が陥りやすい認知誤差」はいくら評価者研修で聞いていても自分自身の陥穽だとは気付かない。「被評価者へのフィードバック」こそ人事評価制度を人の動機付けと成長促進につなげる「生命線」とも言えるのにそれを履行しない。
「評価の時期にことさらに評価を行うのではなく、日常的な観察と指導(支援)を通じて自ずと評価観が形成される」といくら言ってもその意識が定着しない。人事評価制度の形骸化の原因は、やはりそうした主に評価者側の対応にあるように思います。
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