【相談例】
・定時決定のロジックは何とか分かるが、随時改定のロジックが分かりにくい。
・システムから出てくる月変リストが正しいかどうか判断できない。
【解答例】
1_職員数が5人でも50人でも500人でも基本は同じ
勤怠も給与も社会保険も、業務の基本は、職員数が5人でも50人でも500人で
もそれ以上でも同じです。社会保険の標準報酬月額の改定についても基本は同じです。
2.システム化されていようがいまいが基本は同じ
勤怠も給与も社会保険も、その基本は、システム化されていようがいまいが同じで
す。もちろん、社会保険の標準報酬月額の改定についても基本は同じです。
3.基本をおさえ、システムを使いこなすことが必要
職員数の多少やシステムの有無にかかわらず、業務の基本をシステムと共有し、シ
ステムの仕様と機能を理解して主体的に使いこなすことが必要です。
4.標準報酬月額改定の基本
標準報酬月額改定の業務の基本は「被保険者に支払った報酬額に見合った標準報酬
額を決め、保険料の徴収や保険の給付が正しく行なわれるようにすること」です。
(1) 社会保険の保険料と標準報酬月額について
健康保険・厚生年金保険では、毎月の報酬額をもとに標準報酬月額を算定し、そ
れに応じた保険料を徴収し、保険給付を行います。
(2) 標準報酬月額の定時決定について
7月1日現在で使用している被保険者の直近3カ月間(4月~6月)の報酬額の
届出(算定基礎届)によって、毎年9月からの標準報酬月額が決まります。
(3) 標準報酬月額の随時改定について
毎月の固定的賃金が変動して標準報酬月額が2等級以上変動することとなった場
合は、変動後の報酬額の届出(月額変更届)によって標準報酬月額が決まります。
※ 「算定基礎届」と「月額変更届」の様式は本稿末尾に掲載。
5.定時決定のロジックと定時改定に必要なデータ
毎年7月1日現在の全被保険者の、4月~6月の報酬額を、7月10日までに届け
出る(算定基礎届)ことで、9月から適用される標準報酬月額が決まります。
したがって、システムで処理する・しないにかかわらず、毎年7月1日現在の被保
険者について、届け出に必要なデータファイルを立ち上げておくことが必要です。
システムが有れば、7月1日までには既にそうしたデータファイルがシステム内で
スタンバイしているはずですから、担当者はそれをよく確認して下さい。
システムが無ければ、7月1日までには担当者自身が届け出に必要なデータファイ
ルをエクセル等で準備しておかなければなりません。
標準報酬月額の改定に関する業務の困りごとや悩みごとの多くは、届け出に必要な
正しい内容のデータファイルが、期限までに準備できていないことによるものです。
以下に「算定基礎届」の様式に沿って、算定基礎届を届け出るために必要なデータ
ファイルの項目を列挙します(後掲エクセルファイル参照)。
【算定基礎届に必要なデータファイルの項目】
(1) 事業所に関する項目
① 事業所所在地
② 事業所名称
③ 事業主氏名
④ 電話番号
※ 月額変更届の場合は事業所整理番号が必要です(後述)。
(2) 被保険者に関する項目
① 被保険者整理番号
② 被保険者氏名
※ データファイルには、上記のほかに、対象者の各月の雇用形態(フルタイムか
パートタイムか)と給与形態(月給制か日給制か)の情報が必要です。
③ 生年月日
④ 適用年月
※ 改定後の標準報酬月額が適用される年月ですから、通常は当年の9月です。
⑤ 従前の標準報酬月額
⑥ 従前改定月
※ データファイルには、改定前の標準報酬月額と、その適用年月が必要です。
⑦ 昇給・降給の別と昇給・降給後の報酬の支払月
※ データファイルには、月給者であれば各月の基本給や諸手当、時給者であれば
各月の時給額が必要です。
⑧ 遡及払を行った場合は、その支払月と支払額
※ 例えば本給や手当の改定が行われた後、遡及的に差額の支払を行った場合は、
その支給年月と支給額の情報が必要です。
⑨ 報酬の支払月(4月~6月)
※ 算定基礎届に必要なのは4月~6月の3か月分のデータですが、ここで挙げた
項目は、いずれも毎月の給与計算においても必要な項目です。
⑩ 各月の報酬の支払基礎日数
※ 支払基礎日数とは、報酬の対象となった日の数をいいます。なお、年次有給休
暇取得日など、報酬の支払が補償された日を含みます。
標準報酬月額の算定は報酬の支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所の短時
間労働者の場合は11日以上)である月の報酬額に基づいて行います。
したがって、データファイルには、毎月の給与支給の対象となった出勤日の日数
や年次有給休暇等の日数、欠勤減額の対象となった欠勤日の日数が必要です。
⑪ ~ ⑫ 通貨または現物による支払額
※ 標準報酬月額の対象となる報酬とは、「労働の対償として経常的かつ実質的に受
けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのもの」を含みます。
また、「金銭(通貨)に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるも
のも報酬に含む」とされています。
⑬ ~ ⑯ (説明略)
つまり、システムで処理する場合でも、担当者が対応する場合でも、上記の項目を
含むデータファイルを、7月1日までに、正確に立ち上げることが必要です。
6.随時改定のロジックと随時改定に必要なデータ
定時決定に比べて随時改定のロジックはやや複雑ですが、システムと担当者との間で
基本的なロジックとデータを共有すれば多くの問題は解決するはずです。
(1) 随時改定のロジック
随時改定は、下記①~③のすべての要件を満たした場合に行われます。このルール
がシステムと担当者の間で共有されていることがチェックポイントの第一です。
① 固定的賃金に変動があったこと
固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものをいいますが、その変動とし
ては、次のような場合が考えられます(記事引用:日本年金機構)。
・昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
・給与体系の変更(日給から月給への変更等)
・日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更
・請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
・住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更
したがって、随時改定を行うためのデータファイルには、給与の支給項目のそれ
ぞれの支給額と、それぞれが固定的賃金か非固定的賃金かの情報が必要です。
② 従前の標準報酬月額の等級に2等級以上の差が生じること
変動後の固定的賃金が支給されてから3カ月間に支給された非固定的賃金を含む
報酬の平均月額に該当する標準報酬月額の等級に2等級以上の差が生じること。
したがって、随時改定を行うためのデータファイルには、従前の標準報酬月額と
その等級、変動後の固定的賃金の支給月から3カ月間の報酬額が必要です。
保険料月額表が全国健康保険協会のページに公開されていますので、これをエクセ
ルでテーブルにしておけば、標準報酬月額と等級を簡単に検索できます(後掲)。
③ 3カ月とも支払基礎日数が17日(または11日)以上であること
変動後の固定的賃金の支給月から3か月間の報酬の支払基礎日数が17日(特定
適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること。
したがって、随時改定を行うためのデータファイルには、各月の出勤日数と有給
休暇等の日数が必要です。
(2) 随時改定に必要なデータファイル
随時改定は、固定的賃金に変動があった者について、その支給月から3か月間の報
酬の平均額が標準報酬月額の2等級分以上の変動を生じた場合に行われます。
システムで処理する場合でも、担当者が対応する場合でも、適時に「月額変更届」
が出せるようにデータファイルを備えておく必要があります。
随時改定の場合には、固定的賃金の変動があったかどうか、その支給月から3か月
間の報酬の平均額が何等級分の変動を生じたかの情報が必要です。
【参考資料】
〇 定時決定(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html
〇 随時改定(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
〇 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7792&dataType=1&pageNo=1