X-theory_仕方なく仕事をする人

1.マグレガーのX理論

 

 マグレガー(1906-1964、米国の心理学者・経営学者)は「伝統的な人間行動制御理論」を「X理論」と名付けて、それを次のように要約しています。(以下、「人事労務管理の思想」津田眞澂著、有斐閣新書より引用)

 

①普通の人間は、生まれながら仕事がきらいで、できることなら「仕事をやりたくない」とおもっている。

②仕事をきらうという人間の性質のゆえに、強制、命令や処罰の脅迫がないと、企業目標達成のための十分な力を発揮しない。

③人間は命令される方が好きであって、責任を回避したがり、野心ももたず、何よりも安全第一を望んでいる。

 

2.X理論に規定される人

  

 もちろん全ての「仕事をする(働く)人」が上記の「X理論」に当てはまるわけでもないし、一人の「仕事をする(働く)人」が常に「X理論」で満たされている訳でもないでしょうが、筆者の知る範囲でも、次のような人が目につきます。

 

①仕事をすること自体に動機付けられない人

 

 人事の目から見渡すと、「できるだけ(難しい・面倒な)仕事をしないで済まそう」とする人と、「できるだけ(何とかやりくり、工夫・努力・配慮して)良く(良い)仕事をしよう」とする人とでは仕事の意義も成果も百八十度違います。

 

 筆者の目には「できるだけ仕事をしないように動機づけられている」かのように見える人がいます。「遅れず、休まず、働かず」が公務員への悪口であり、多くの定年退職者のお別れの挨拶の常套句のひとつが「大過なく」でした。

 

 今でも、人事評価制度が無いか、あっても機能していないところでは、「やってもやらなくても同じ」「できるだけ波風を立てない(事なかれ主義)」の発想や態度や習慣に染まって(それに気づかないでいる)人が多いのかも知れません。

 

②目標を持たない人

 

 MBO(Management by Objectives and Self Control=「目標を持って自主的に仕事をすること」)について説明をしている時に、「どんな目標を設定すれば良いか教えて下さい。」と真顔で問われて当惑したことがあります。

 

 自分の仕事について「どうしたい」とか、将来の自分について「どうありたい」とか考えるのが「ふつう」だと筆者は思うのですが、そんなことを考える余裕もないほど、仕事に追いかけられ、指示に追い込まれているのでしょうか? 

 

 MBO(通常「目標管理」と訳されている人事制度)を単なる「ノルマ主義」としてしか理解も運用のできない組織や人が多いのが現実です。自分の仕事や自分自身について「こうしたい」とか「こうありたい」を見失うのでしょうか。

 

③学習しない人、繰り返す人、元に戻る人

 

 同じような失敗を繰り返し、同じような叱責を何度も受ける人がいます。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ(チャーチル)」と言いますが、「自己の失敗経験にさえ学べない」ようでは成長も期待できません。

 

 また、今まで手慣れた自分のやり方が固く習慣化してしまい、より合理的・標準的・効率的なやり方を容易に受け入れず、一見受け入れたかに見えて、指導者がいなくなった途端に「元に戻る(元のやり方に戻す)」人も少なくありません。

 

 さらに、「学習」と「思慮」と「実践」がばらばらで相伴わず、せっかく「学んだ」こともそれを「学べど思わず」または「学べど行わず」の弊に陥ってしまい、現実との悪戦苦闘や試行錯誤や切磋琢磨とも「無縁」に見える人もいます。 

 

④協力を惜しむ人

 

 「組織的な協働」が当たり前であるはずの企業においても、実際には「快く協力する人」よりも「協力を惜しむ人」のほうが多いと感じる場面もあり、これらの人々から「理解と協力」を引き出すのが最大の苦労のようにも感じることがあります。

 

 また、「集団的サボタージュ」の心理に知らず知らずのうちに陥ってしまい、「組織」の陰に隠れて、守るべきことや行うべきことを怠り、結局は組織による他律 的な管理や統制を強めてしまう結果になることも多いものです。

 

 「協力」は「管理」や「強制」をされて行うものでは全くありません。「滅私奉公」を強制される性質のものでは全くありません。組織の目的の達成や価値の実現に自らコミットメントする(与する、資する)こと以外にありません。

 

⑤「言われなければやらない人」=「言われても結局出来ない人」

 

 総じて「X理論に規定される人」とは、「仕事そのものに動機付けられない人」です。「より良く(良い)仕事をしよう」とか「仕事を通じて成長しよう」という内発的な動機付けを欠く人たちのことです。残念ながら現実にはかなりの割合で存在します。

 

 「言われなければ(注意や指導をされなければ)」自ら学びもせず、考えもせず、気付きもせず、提案もせず、実行もせず、協力もしない人たちのことです。では 「言われれば」出来るのかというと、実際には「結局出来ない」ことが多い人たちです。

 

 組織を管理して(人を組織を通じて)仕事上の成果を出すことを役割とする立場から見ると、これらの「X理論に規定される人」たちへの「動機付け」は、マグレガーが言うように、「強制、命令や処罰の脅迫」または「何よりも安全第一」以外にはないのでしょうか?