<追記事項_20210816_人間関係力>
EQとは、自他の人間的な感情を上手く処理し、仕事上の相手や仲間や周囲との良好な人間関係を形成することができる経験的能力です。仕事には必ず相手や仲間や周囲がいるのですから、人間関係形成力は必須の能力です。
こうした能力は家庭や学校ではなかなか修得できません。(親子間や友人間やクラブ活動やアルバイトやボランティアだけでは無理です。)学校を出たばかりの新人に求めるのは限界があり、採用後の育成の重要なテーマのひとつです。
より良く(より良い)仕事をする上で、結局のところ、どういう能力がいちばん大切かと問われれば、筆者は迷いなく「人間関係力」だと答えます。「仕事をする」ということは、「他者と関わる」ということとほぼ同義だからです。
<以下原文>
1.「試験の点数」が「能力の尺度」ではない。
学校時代は「試験の点数」が「能力の尺度」であったかも知れませんが、少なくとも実務の世界で「仕事をする」上ではほとんど意味を持たず、またいわゆる「学歴」の別も、ほとんど実質的な意味を持ちません。
最もベーシックなレベルでの「仕事」とは、「情報処理のモデル」として説明できます。すなわちINPUT(得られた情報)からDATA(保有している情報)に基づいてOUTPUT(実現される価値)を生み出すPROCESSが「仕事」です。
INPUT ⇒ PROCESS ⇒ OUTPUT
⇑
DATA
与えられたINPUTから、豊富なDATAに基づいて、最も価値のあるOUTPUTを引き出すことがPROCESS(仕事)であり、これを、駆動Driveしたり制御Controlしたりする力が「仕事の能力Ability」です。
<追記事項_20210608_「学校の勉強」と「会社の仕事」の違い>
ただし、上記は最もベーシックなレベルでの「仕事」のモデル化の一例です。実務では、次のような諸点が「学校の勉強」とは異なります。
① あらかじめひとつの正解が準備されているわけではない。
② DATAは資料や文献だけでなく現実そのものの中にある場合が多い。
③ OUTPUTだけでは解決にならず、OUTCOME(その結果)が重要。
④ OUTPUTを人間関係に当てはめてみないとOUTCOMEは分からない。
⑤ 仕事は作業ではなく「解決SOLUTION」である場合が多い。
2.IQで特に重要なのは「論理性(合理性)」
ところで、筆者が見るところ、「知的能力=IQ」の中で、「仕事をする能力」に最も関連性が強いのは「論理性(合理性)」です。即ち、論理的に理解し、思考し、説明し、選択し、行動する能力です。
① 論理的に理解する。
② 論理的に思考する。
③ 論理的に説明する。
④ 論理的に選択する。
⑤ 論理的に行動する。
①②③は、「それはどういうことか?」「なぜそうなのか?」「そうするとらどうなるか?」を、好き嫌い等の感情や、良い悪い等の価値観を「一旦抜き」にして、論理的に理解・思考・説明することです。
④⑤は、①②③に基づいて、最も合理的な自分自身の言動や態度(誰に何をどう言うか、いつ何をどうするか…)を選び取り、実際自分自身の言動や態度として現す(表す)ことです。
親と子の会話に「どう思う?」「なぜそう思うの?」「どうすれば良いと思う?」「なぜそう思う?」「そうするとどうなると思う?」という会話が多ければ多いほど子供の論理性は育つのだろうと思います。
上司が部下に「いったいなぜなんだ!?(何度言ったら分かるんだ?!)」などと詰問するような会話からは部下の論理的な理解も思考も説明も選択も行動も育まれないでしょう。
「1+1=2」という「数理」で理解・思考・説明・選択・行動しなければ仕事が成り立ちませんし、「AならばBである(なぜならば…、したがって…)」という「論理」で理解・思考・説明・行動しなければ通用しません。
これらは「当たり前」のことですが、実際には「論理が通らない」仕事ぶりが多いのが現実です。例えば「AはBですか?」という質問に「い いえ、CはDです。」という答えが返ってくるやりとりも現実にあります。
また、主語と述語が1対1に対応しない、5W2H(「Who誰が」「What何を」「Whenいつ」「Where どこで」「Why なぜ」「How どのように」「How much いくら、どれだけ」が明らかでないようなやりとりが多いのも現実です。
仕事は「組織的に協働して」行うものですから、部下でも上司でも同僚でも、お互いに「相手の仕事がしやすいように仕事をする」ことが必要です。「どういう仕事のしかたが相手の仕事をしやすくするか」を導くのが「論理性」です。
また、社会人、職業人としては、自分の言動について「説明責任 Accountability」がありますので、合理的に(合法的に、という意味も含めて)相手が納得するような理解、思考、説明、行動ができないようでは困ります。
<事実と論理>
人それぞれにさまざまな「感じや思い」「経緯や関係」「利害や得失」もあるでしょうが、しかし、先ずは、一旦それらをヨコにおいて、純粋な「事実と論理」に忠実にモノを見て・考え・言うのでなければ「ハナシにならない」です。
好嫌や自己都合や損得で事実関係がゆがめられてはならないし、論理矛盾を起こしてはならないのです。このことはたとえ「利害が相反する相手」との関係でも同じであって、だからこそ紛争は解決し、裁判は信頼に足りるのです。
先ずは事実であり、論理です。「それは、実際には、現実にはどのようになっているのか?」「それは、なぜ、そうなのか?」です。「事実や論理」がしっかりしたハナシ(仕事)は強いし、そうでないハナシ(仕事)は弱い。
<目的と意思>
「事実と論理」に加えて言えば、やはり「目的や価値」であり「意義や意思」がしっかりしたハナシ(仕事)は強いし、そうでないハナシ(仕事)は弱い。「何のためか?」「どうしたいか?」という「思い」の強さです。
<共感と寛容>
さらに加えて言うなら、「共感と理解」であり「支持と協力」です。「受容と寛容」であると言っても良い。それらがあればハナシ(仕事)は強く、上手く行くし、それらがなければハナシ(仕事)は弱く、上手く行きません。
<経験と学習>
教科書の意味や内容を理解することはとても大事です。それを自分で実際にやってみて、「ああそういうことか…」と学ぶことはもっと大事です。「ではこんなことは?」「こういう場合は?」と考え、実行することはさらに大事です。
自分で実際にやってみて、変化や影響や結果が出て、思い通りだったかどうか、それはなぜかを振り返り、ではどうすればいいか、次にはどうしよう…という過程が経験と学習です。
ただし、自分自身の経験にだけ学ぶのは限界があります。ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言ったそうですが、「歴史」は言い換えれば「他者の経験」です。それに学ぶにはさらに深い想像力や思考力が必要です。
3.EQ(情動的能力)とSQ(社会的能力)
ダニエル・ゴールマンは、次のような能力を「EQ(こころの知能指数)」として述べています。(「EQ~こころの知能指数」(ダニエル・ゴールマン著、土屋京子訳、講談社)
① 自分自身の情動を知る(自分が何をどう感じているのかを客観的に把握)
② 感情を制御する(不安や憂うつや苛立ちを振り払い感情を制御)
③ 自分を動機付ける(目標達成に向かって自分の気持ちを奮い立たせる)
④ 他人の感情を認識する(他人の感情をうまく受けとめる)
⑤ 人間関係を上手く処理する(他人との協調が必要な仕事をこなす)
よほどの天才的な芸術家でもないかぎり、「仕事をする」ということは「人と組織との協働関係を通じて仕事をする」ということです。「ひとりで仕事をする」ことにそれほど大きな成果も価値も評価も期待することはできません。
「人と組織との協働関係を通じて仕事をする能力」を、「SQ(社会的能力)」とすれば、「SQ=IQ×EQ」です。「IQの高さは、EQが高ければ高いほど、仕事をする能力の高さとして発揮される。」という意味です。
「SQ(社会的能力)」の中で最も重要な能力は「コミュニケーション能力」です。それは、単に「聴く」「話す」「書く」という能力に留まらず、「相手や周囲と協調し、その理解と協力を得ながら仕事をすすめる能力」を言います。