1_1 こういう採用をしてはいけない

 

(1)採用選考で判定すべき4つの適性

 

 後になって「退職させなければならない」ような人を採用してはならないし、後になって「降格させなければならない人を昇格させてはならない」というのが筆者の信念のひとつです。「採用」は企業の自由ですが、同時に企業の責任でもあります。

 

 組織や企業とは「何らかの目的を達成し、価値を実現する協働体」ですから、そうした組織的協働に適した人を採るべきです。自分の組織(企業)に相応しく、「この人となら一緒に仕事をしたいと思う人」を採るべきです。

 

 もし読者各位が採用選考に関与される機会があれば、下記の①資質適性、②能力適性、③指向適性、④行動適性という4つの適性を基準にして、みなさんの組織や企業により相応しい人を選んで下さい。

 

①資質適性 ・・・ 幼児期に形成された人格的な原型に基づくその人の思考や言動や態度の特徴や傾向を判定します。特に組織的協働(共同性・社会性)と相容れないような偏りがないかどうかの判定が重要です。

 

<資質適性のチェック項目例>

 □ 受動的 / □ 能動的

 □ 依存的 / □ 独立的

 □ 浅く移り気な興味 / □ 深く強い(持続的な)興味

 □ 短期的展望 / □ 長期的展望

 □ 従属的 / □ 対等または優越的

 □ 自己認識の欠如 / □ 自己発見と統制

<パーソナリティーの偏りに関するチェック項目>

 □ 非統合的で奇妙な言動

 □ 演技的で過度な情動性

 □ 社会的関係からの遊離

 □ 自己愛的で誇大妄想的

 □ 妄想的な不信感や疑心

 □ 困難や他者からの回避

 □ 他者の無視または侵害

 □ 他者への依存や従属性

 □ 感情の不安定や衝動性

 □ 自己強迫的な完璧主義

 

②能力適性 ・・・ IQ(知的能力、特に論理性)、EQ(情動的能力)およびこれらの総合であるSQ(社会的能力・コミュニケーション能力・ソリューション能力)ならびにTQ(募集職種における専門的能力)を判定します。 

 

IQ

 □ 理解力

 □ 思考力

 □ 判断力

EQ

 □ 自分の情動を知る

 □ 感情を制御する

 □ 自分を動機付ける

 □ 他人の感情を認識する

 □ 人間関係を上手く処理する

SQ

 □コミュニケーション能力

   □積極的に傾聴し肯定的に受容できる

   □相手の意図や感情を理解できる

   □適確な表現で相手に伝えることができる

   □コミュニケーションを促進し合意を形成できる

 □良好な人間関係・信頼関係を形成できる

 □相手や周囲から理解と協力を得ることができる

 

③指向適性 ・・・ 本人が本当にやりたいと思っていること・本人が実際にできること・本人に期待されていること・本人が実際にやってきたこと・本人が実際にやっていることのAND(重なり)の大きさを判定します。

 

 □ Realistic 現実的

 □ Investigative 研究的

 □ Artistic 芸術的

 □ Conventional 慣習的

 □ Social 社会的

 □ Enterprising 企業的

 □ 組織的活動へのかかわり

 □ 募集職種への指向性

 □ やりたいこと・できること・期待されること・やってきたこと・やっていることの重なり

 

④行動適性 ・・・ 資質が豊かで、能力が高く、指向が強くても、いわゆる「態度」(例えば誠実性・主体性・責任感など)が悪くては組織的な協働には適しません。ここではそれを「行動適性」として判定します。

 

 誠実性 … □ 真摯性、規律性、信頼性

 協調性 … □ 受容性、協働性、指導性

 責任感 … □ 自律性、自責性、実行力

 

 上記を反映させた「採用選考シート」の実用例については、下記をご覧下さい。

ダウンロード
採用選考シート.xlsx
Microsoft Excel 18.5 KB

<採用選考シートの使用例>

 ① 応募者1名に対して面接官2~3名の面接を想定します。

 ② 面接官の質問は簡潔に、できるだけ「応募者から多くの発言を」引き出して下さい。

 ③ 応募者との面談を通じて「感じたままに」選考シートに記入して下さい。

 ④ 面接官どうしで「なぜそう感じたか」について話し合って下さい。

 ⑤ 全ての候補者の面接が終わったら総合的な採否判定につき話し合って下さい。

 

<追記_20160605>「知・情・意」という選考要素もありうる。

 

 「この人となら一緒に仕事をしたいと思う人」の選考要素を、本稿では資質適性、能力適性、指向適性、行動適性という四つの適性としましたが、旧くから一般的に言われる「知・情・意」という三要素が有効な採用選考の基軸になりうることは言うまでもありません。

 

①知(IQ)

 

 「AならばBである」という論理や「1+1=2である」という数理に基づいて面接官の質問(の意味や内容)を合理的に理解でき、自らの回答(の理由や根拠)を合理的に説明できるかどうか、というのが採用選考面接における最低限のチェックポイントです。

 

②情(EQ)

 

 採用選考面接でのやりとりを通じて「相手の感情」への理解と受容、「自分の感情」への認知と制御ができる人かどうか、というのがチェックポイントです。「IQの高さがEQの豊かさを伴って伝わってくる」かどうかということです。

 

③意(Will)

 

 単に「何でもできます」「頑張ります」ではなく、「何ができるか」「それはなぜか」「そのために今まで何をしてきたか」「これからどうしたいか」を説得力をもって説明できるか、という点です。本人が「本当は何をしたいと思っているか」の見極めです。 

 

(2)ネガティブチェックのすすめ

 

 企業は一定の目的・目標の達成や価値の実現の為に多くの人たちが協働する組織体ですので、コミュニケーション能力に著しく欠ける人や協調性・社会性に著しく欠ける人たちを安易に採用してはなりません。

 

 もちろん、それらの人たちを企業の責任として雇用し、職業人として育成するというなら別ですが、のちに「ローパーフォーマー」や「職場の中の困った人たち」として退職を求めるくらいなら、採用そのものを差し控えるべきです。

  

 新卒採用では応募者が募集職種に必要な「知識や経験」を有していないのは当たり前ですが、しかしそれは採用後の育成次第で「何とかなる」要素ですので、新卒採用の選考で「知識や経験」の多寡を重視すべきではありません。

 

 また、企業としては新卒者に「協調性」「主体性」「積極性」「誠実性」「責任感」などを期待するはずですので、そうした適性は学校時代にも発揮できているはずなので、本人の実体験談を聴き出すことである程度推定ができるはずです。

 

 応募者の資質・能力・指向・行動適性のうち、多くは資質適性に見られるネガティブな要素が、採用後の育成で「何とかなる」ものなら「採っても良い」し、採用後の育成でも「どうにもならない」ものなら「採ってはいけない」のです。

 

① コミュニケーション能力に著しく欠ける人

 

 配属職場における「採用ミス」の声の多くは、「周囲とのコミュニケーションが上手くとれない」ということです。企業は、採用面接での意思疎通が十分にできないような人を安易に採用してはなりません。

 

<「コミュニケーション能力に著しく欠ける」事例>

 □ 自分が何を言っているのか、何が言いたいのか相手にはほとんど分からない。

 □ 相手の質問の意図や内容が把握できず、質問と回答がほとんどかみ合わない。

 □ 極度の緊張等により、「Yes、No」以外は ほとんど会話が成立しない。

 □ または一方的にしゃべりすぎ、双方向の会話が上手く成り立たない。

 □ 文章表現が極めて稚拙で、何を言いたいかほとんど理解できない。

 

② 協調性に著しく欠ける人

 

 「周囲とのコミュニケーションが上手くとれない」ことともに「協調性が無い」ということ「採用ミス」の声の多くを占めます。その人の言動や態度や思考の特性や偏りが、相手や周囲の理解や協力を得にくいということでしょう。

 

<「協調性に著しく欠ける」事例>

 □ 極端なわがまま、自分勝手、自己本位

 □ 過剰な優越感または過剰な劣等感

 □ 極端な頑迷さ、物分かりの悪さ

 □ 相手や周囲への悪意や敵意、被害または加害の意識、無理解・無理解・非協力

 □ その他著しい未熟さ(下記)、またはパーソナリティーの偏り(下記)

 

③ 年齢不相応に未熟に感じる人

 

 新人の「未熟性」はある程度やむを得ませんが、年齢不相応に見える「未熟さ」には要注意です。次頁にアージリスの「人間が年を経て成熟する過程における7つの人格上の変化」についての未熟性(Maturity)の特徴点を紹介します。

  

 これらの特徴は、筆記選考では測れませんし、面接選考における特別な方法があるわけでもありません。面接官が応募者とのコミュニケーションの中で感じとる以外に良い方法は、少なくとも筆者には思い当りません。

 

 成熟性

   □ 能動的

   □ 独立

   □ 多様な行動

   □ 深く強い興味

   □ 長期的展望

   □ 対等または優越

   □ 自己発見と統制

 未熟性

   □ 受動的

   □ 依存的

   □ 単純な行動

   □ 浅く移り気な興味

   □ 短期的展望

   □ 従属的

   □ 自己認識の欠如

 

 選考のポイントはこれらの「未熟性」が候補者の態度や言動に「極端に」現れていないかどうかという点です。(上表「未熟性」の各項目に「極端に」という接頭語を付けて、該否チェック(該当項目に☑)をして下さい。

 

④ パーソナリティーに極端な偏りがある人

 

 参考までに、以下に「パーソナリティー障害」の分類を掲げます。使い方は①のリストと同じです。「年齢不相応」に「極端な」偏りが候補者の態度や言動に「極端に」現われていないかどうか、慎重な選考を重ねて下さい。

 

 【A群パーソナリティー障害】奇妙で風変わりに見える。

  □ 親密な関係で急に不快になる。認知的・知覚的歪曲、行動の奇妙さ。

  □ 社会的関係からの遊離、感情表現の範囲が限定される。

  □ 他人の動機を悪意のあるものに解釈するといった、不信と疑い深さ。

 

 【B群パーソナリティー障害】演劇的で、情緒的で、移り気に見える。

  □ 他人の権利を無視しそれを侵害する。

  □ 対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性。

  □ 過度な情動性、人の注意をひこうとする過度の言動。

  □ 誇大的で、賞賛されたいという欲求、他人への共感の欠如。

 

 【C群パーソナリティー障害】不安・恐怖を感じやすい。

  □ 困難や他人との密な接触を回避する。他人からの否定的評価に対して過敏。

  □ 世話をされたいという全般的で過剰な欲求のために従属的でしがみつく。

  □ 秩序、完全主義、コントロールすること、に非効率的なまでにとらわれ。 

 

⑤ 上記①~④の自己認識に欠ける人

 

 「コミュニケーション能力に著しく欠ける人」や「協調性に著しく欠ける人」や「年齢不相応に未熟に感じる人」や「パーソナリティーに極端な偏りがある人」を採ってはならないのは上記のとおりですが、問題はそれらへの本人の「自己認識」の有無や程度です。

 

 また、採用する側にもどの程度の「客観認識」が有るか無いかです。応募側にも採用側にも互いに共通認識があれば「採用後の育成(成長の促進)で何とかなる」かもしれませんが、そうでない場合は遅かれ早かれ両者の関係に問題が生じるでしょう。

  

 ちなみに、筆者は「人間の人格の原型は概ね4〜5歳のころに形成される」というアドラーの説に共感します。筆者自身を振り返って見ても、筆者が関わる多くの人たちを観察しみても、「4〜5歳のころに形成された人格」が文字通り「原型」になっていると感じます。

 

 組織的協働(共同性)においていろいろと問題になる言動や態度(周囲の人とうまくやっていけないという問題)は、こうした「人格の原型」に根差した問題であって、企業としては「採用選考」でその問題の有無や大小を判定すべきです。

 

 そうした問題を、職場において現れるその人の具体的な言動や態度のレイヤで「何とかする」(例えば「改める」)ことは「指導」や「育成」の領域であっても、「人格の原型」にまでさかのぼって「改める」ことは企業の育成責任の範囲を超えていると思います。

 

<追記_20160710>解雇の制限と採用の自由

 

 解雇の自由が過去の判例や労働契約法等において大きく制限されているのはご存じのとおりですが、採用の自由を制約する法理は、男女差別や人権侵害、障害者雇用にかかわる問題以外には見当たりません。

 

 これを簡単に言いかえれば、「退職させなければいけなくなるような人を採用してはならない」ということであり、それがせめてもの「採用における企業の社会的責任」であると、筆者は思います。解雇の制限と採用の自由は、ともに企業の社会的責任です。

 

 そう考えると、ただ一度の採用選考でそれほど大きな雇用責任を背負い込むのは合理的でないのは明らかであり、やはり「試用期間」を有名無実化(就業規則には掲げてあるものの有効に運用されていない)せず、もっと厳格に運用すべきです。