5_1.処遇制度の設計基準(何をもって人を処遇すべきか)

 

(1)「処遇」とは何か?

 

 「処遇」とは、組織や企業の中で、個々の構成員に、例えばどのような雇用区分で、どのような職位や給与などを適用するかということです。(例えば、「正規職員として採用する。部長職とし、基本年俸1000万円とする」などのように。)

 

 多くの読者にとって「処遇制度」は既成の人事制度であるとは思いますが、それがどのような基準や原理で成り立っているかを知ることは、実際にそれを運用する(部下をしかるべく処遇する)上でたいへん有意義であるはずです。

 

(2)処遇の基準

 

  では何を基準に処遇を決定するか、というのが「処遇の基準」です。「何が」高ければより手厚く・高く処遇するか、という際の「何が」にあたる部分です。例えば、年功、経験、能力、実績、評価などが、この「処遇の基準」になり得ます。

 

①「年功」や「経験」という処遇の基準

 

 いわゆる「年功」が「処遇の基準」になり得るでしょうか。もし「年功主義」がまさにその言葉通り、「年々歳々功(徳)ある者を高く(厚く)遇する」という実態を伴うものであるなら、これほど人間の情理に適う基準はありません。

 

 また、特に医師などの「処遇の基準」は、「卒年(年次)と経験(年数)」であることが多く、それに能力や実績が実態として伴うものであるなら、特に専門的な職種においては、これほど合理性や納得性の高い基準はありません。

 

 しかしそれで全てが上手く行くわけではなく、「年齢も高く経験も長い」人が必ずしも能力や高く、貢献が大きいとは限らず、「年齢も低く経験も短い」人が必ずしも能力が低く、貢献も小さいとは限らないため、年功制を無条件に貫くと弊害が出ます。

 

②「功」と「徳」という処遇の基準

  

 昔の中国に「功には禄を、徳には位を」という趣旨の言葉があります。人の「功」(功績)を評価して禄(報酬)をもって処遇し、人の「徳」(人徳)を評価して「位」(地位)をもって処遇するのが良い(人も国も良く治まる)という教えです。

 

 そもそも組織(企業)とは、何らかの人間的・社会的な目的を達成し、価値を実現するためのものですから、「功」とは企業(組織)の目的の達成や価値の実現にどれだけ貢献したか(貢献できるか)ということです。

 

 また、組織(企業)が目的を達成し、価値を実現するのは、構成員たる人々の組織的・社会的協働を通じてですから、人と組織からそうした協働による成果を引き出すためにはメンバーやリーダーに高い人間的社会的な協働性=「徳」が必要です。

 

③「能力」や「実績」および「評価」という処遇の基準

 

 「年功」や「経験」だけで「割り切れない」(必ずしも「年々歳々功ある」者ばかりでない)ところに現実(実態)の悩みがあるのでしょうから、それを「是正」する基準として、例えば「能力」や「実績」などの基準が必要となります。

 

 「年功」や「経験」による処遇を是正するはずの「能力」についは、現実には「能力自体を適正に評価すること」は極めて困難であり、「実績」についても、「組織的協働の成果を個々人の努力や貢献に還元すること」にも相当困難です。

  

 そこで「能力」や「実績」などを総合して、組織(企業)の目的達成や価値実現への「貢献度(および協働性)」を問う「人事評価」と、それにに基づく処遇がより信頼性・妥当性・納得性のある処遇基準となります。

 

④「成長段階」という処遇の基準

 

 ところで、人が企業組織で協働的に仕事をすることを通じて「成長する」ということについて、筆者は次のような三つの成長段階を想定しています。(詳細は、「人と組織が成長するとはどういうことか?」の稿をご参照下さい。)

 

1)人の成長の第一段階 

… 具体的な指示に基づいて職務を遂行するレベル(遂行レベルまたはエントリーレベル)。この段階における人と組織の関係は「従属的関係」である。

 

2)人の成長の第二段階

… 包括的な指示と自らの判断のもとに職務を遂行するレベル(判断レベルまたはメンバーレベル)。この段階における人と組織の関係は「主体的関係」である。

 

3)人の成長の第三段階

… 職務上の判断と指導が主な職務となるレベル(指導レベルまたはリーダーレベル)。この段階における人と組織の関係は「主導的関係」である。 

 

 つまり、②の「能力」「実績」「評価」の結果と同じですが、上記の遂行-判断-指導という「成長段階」に応じて、個々の人を処遇すれば良いのです。このことは、新卒後概ね経験年数15年程度以内の人の処遇基準に適しています。

 

⑤「役割」という基準

 

 しかし、上記の処遇基準は、いずれもいわば「属人的」な概念です。それはそれで「人間的」で良いのですが必ずしも経営合理的ではありません。そこで既にいくつかの企業では、「役割」という概念が、処遇の基準として採用されるようになっています。

 

 つまり、「組織(企業)」とは、何らかの目的を達成し、価値を実現しようとする人々の協働体なのですから、個々の構成員にはそれぞれPosition(位置付け)とMission(果たすべき役割)が定義できるはずなのです。

 

 この「役割」の大きさ・重要さ・困難さの期待水準に応じて処遇の基本要件(職位や給与などの基準)を定めればよいのです。そして、この期待水準を現実に発揮した程度を評価して、処遇(昇任や昇給)に反映させれば良いのです。

  

(3)処遇階層のモデル

 

 上記の④の成長段階と、⑤の役割を基準にすれば、企業組織で働く人たちの処遇の階層構造は、例えば以下のように描くことができます。

 

 管理職層  3級・2級・1級      専門職層 3級・2級・1級

          

          遂行職層  3級・2級・1級

 

<モデルの説明>

 

 ・遂行職層の上位に管理職層と専門職層を置く。

 ・遂行職層は「成長段階」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

  1級 … 指導レベル(リーダーとしてメンバーを指導する)

  2級 … 判断レベル(包括的指示に基づいて判断しながら業務を遂行する)

  3級 … 遂行レベル(個別具体的指示を正確・迅速・丁寧に遂行する)

 ・管理職層は「組織の大きさ」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

  1級 … 大規模の組織の管理責任を通じて事業に貢献する。

  2級 … 中規模の組織の管理責任を通じて事業に貢献する。

  3級 … 小規模の組織の管理責任を通じて事業に貢献する。

 ・専門職層は「専門性の高さ」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

  1級 … 極めて高い専門性を発揮しながら事業に貢献する。

  2級 … 高い専門性を発揮しながら事業に貢献する。

  3級 … 専門性を発揮しながら事業に貢献する。

 ・遂行職層内の等級昇格は人事評価による。

 ・遂行職層から管理職層または専門職層への任用は選抜試験による。

 ・但し管理職層と専門職層のポストと定員は組織の規模と必要に応じて定める。

 ・管理職層内および専門職層内の等級昇格は人事評価と定員充足状況による。

 

<追記事項>遂行職層の処遇原理と管理職層・専門職層の処遇原理の違い

 

 上記モデルでの、遂行職層における処遇原理をひと言でいえば「能力主義」です。あらかじめポストや定員を定めることなく、各級を母集団とする人事評価(態度-能力-実績)において継続的に一定以上の高評価を得た者を上位等級に処遇すれば良いでしょう。

 

 遂行職層から管理職層または専門職層への任用原理は「選抜主義」であり「定員主義」であり「組織原理」です。管理職層も専門職層も、「どういうレベルにどういうポストを置くか」したがって「定員を何名とするか」は「組織設計」の問題です。

 

 いくら「優秀な人たちが多い」企業や組織であっても、その優秀さを発揮するだけの事業が成り立っていなければ、そうした事業を推進する組織も成り立ちませんし、そうした人たちを処遇できるポストもありません。

 

<追記事項>「専門職」と「専任職」の違い

 

 いわゆる「戦後の高度成長期」には事業が右肩上がりに拡大するし、それに伴なって組織構造も拡大し、年齢別人口構造もピラミッド型だったでしょうから、人を処遇するのに、ポストが不足して困ることもなかったでしょう。

 

 ところが経済成長が鈍化して事業の拡大も組織の拡大もままならず、大量採用時代の人たちが高齢化するとその処遇に困り始めた、というのが、従来の「管理職」以外の処遇方法としての「専門職」または「専任職」だったのでしょう。

 

 しかし、真に「組織上の必要」や「専門性の高さ(=事業性の大きさ)」に根ざした処遇としての「専門職」や「研究職」ならまだしも、本来なら「遂行職」の業務や、「管理職」の業務の一部を担う「専任職」は、まさに「困った末の処遇」でしかなかったはずです。