「仕事を進める上で一番大切なことは何だと思いますか?」と採用選考で尋ねると、多くの応募者は「コミュニケーション」と答えます。「周囲や相手とコミュニケーション良く仕事をすること」は、上司・部下ともに仕事の大原則です。
では「具体的にはどうすれば良いと思いますか?(現実的にあなたはそれをどのように実践していますか?)」と重ねて尋ねると、応募者だけでなく、現役の上司・部下でさえ、答えに窮するかも知れません。
上司の立場にいる人も、部下の立場にいる人も、およそ組織的な協働を通じて(人と組織を通じて)仕事を進めようとする人であるなら、下記を参考に、各自のコミュニケーションレベルを向上させるための第一歩を踏み出して下さい。
1_1 「分け隔てのない挨拶と礼儀と返事」を習慣化してほしい
「おはようございます」は誰に対しても「おはようございます」であり、「ありがとうございます」は誰に対してでも「ありがとうございます」です。相手が部下だからと言って相手への気持ちが割り引かれて良いはずがありません。
総じて相手の立場や人格の尊重、すなわち相手への「敬意 Respect」を欠失してしまっては、上司・部下関係であろうが家族・友人関係であろうが、そもそも社会的人間的関係が円満に成り立つはずもありません。
実は職場にも、分け隔てなく気持のよい挨拶が出来ない、しない人が何人もいます。それでは「組織的協働を通じて共通の目的を達成し、共通の価値を実現する」=「企業活動」が成り立つはずがありません。
1_2 「気後れを手遅れにしない」でほしい
学校時代とは違い、仕事を通じて立場や年代の違う人たちとの関わり合いが多くなると思いますが、どのような立場や年代の人に対しても、決して「気後れ」することなく接してほしいというのが筆者の願いです。
コミュニケーションの第一歩は「挨拶・礼儀・返事」です。誰に対しても等しく「挨拶・礼儀・返事」を欠かさないことが大切です。(「目上・目下」にかかわらず、挨拶・礼儀・返事を欠かしてはなりません。)
上司や先輩を「敬遠」する気持ちは分りますですが、相手を「尊敬する」気持ちが相手を「遠ざける」気持ちにつながらないように、「挨拶・礼儀・返事」を確実に積み重ねて行けば、きっと「親しみ」の感情と関係が芽生えるはずです。
1_3 「ノーレスポンスはNG(禁忌)」と心得てほしい
少し問い詰められるような聴き方をされると黙り込んでしまう人がいますが、社会人としてはあまり良いことではありません。また、迷惑メールでもない限り、メール等で依頼や問い合わせを受けて何も応答しないのは極めて失礼です。
相当なベテランの中にも、気の進まない依頼や問い合わせに応答せずに放置しておく習慣の人がいますが、新人のみなさんは決して真似をしないで下さい。(「ノーレスポンスは禁忌」「クイックレスポンスが基本」です。)
筆者自身は「メールには(迷惑メールでない限り)遅くとも実働24時間以内に何らかの回答をする」ことを習慣にし、部下にもそのように求めています。 回答が遅れるときにはその旨相手に伝えることが「当たり前」だと思います。
1_4 「肯定的受容と積極的傾聴」を習慣化してほしい
コミュニケーションの基本は肯定的受容(遮ったり否定したりせずに先ずは相手の言い分を聴き容れる)と積極的傾聴(相手を見る、メモをとる、質問をする等)ですが、現実にはこれに反する態度の上司や部下が多いものです。
人の言動や態度には、コミュニケーションを促進する要因とコミュニケーションを阻害する要因がありますが、肯定的受容や積極的傾聴は促進要因となり、遮りや無視や否定や忌避はもちろん阻害要因になります。
「コミュニケーションが上手く行かない」と感じたら、自分自身の言動や態度の中に、自分では気付かないコミュニケーション阻害要因が隠れていなかったかどうかを振り返ってみることは必要であり自有効であると思います。
1_5 「何を言うかよりもどう言うかが大事」と思ってほしい
「何を言うかより(いつ、誰が、誰に)どう言うか、どう伝わるかのほうが大事」というのも、コミュニケーションの基本です。相手の感情にも理解にも容赦なく、一方的に早口でまくしたてるように話す人たちがいるのは困ります。
コミュニケーションとは「何を言うかよりもどう言うか、何をどう伝えるかが大事」です。言葉そのものよりも言葉づかいや態度や表情などの感情的・視覚的要素のほうがより強く「何がどう伝わるか」を決定します。
対立相手に対しても、敬意と礼儀をふまえた言葉や態度や表情で接して下さい。無益な争いを止め、互譲し、相手と合意形成することが肝要です。「コミュニケーションの力は仕事の力」であり「コミュニケーションは解決の力」です。
1_6 「どうしようかなと思ったら報・連・相」してほしい
組織的活動にとって「情報」は血液、「報・連・相」は血管です。「報・連・相」は、組織的に協働しながら(事実関係と問題意識を共有しながら)仕事を進めるために最低限必要なコミュニケーション上の習慣のひとつです。
組織的に仕事をする、ということは事実関係と問題意識を共有し、人と組織の理解と合意と協力を引き出しながら仕事をすることです。「報・連・相」が誰にとっても日常習慣化していなければなりません。
「困ったときには報連相」。困ったことや難しい問題に直面したとき、「友達に相談する」のではなく「上司に報連相」です。「どうしようかなと思ったら報連相」です。「まあいいや」と思わず、気後れせず、「上司に報連相」です。
1_7 「報告してはじめて仕事が終わる」と思ってほしい
例えば上司から「コピーをとっておいて」と指示されたら、単に「コピーをとる」という作業を終えるだけでは仕事は終わらないのです。仕事は作業ではありません。
そのコピーを上司に届ける、または指定された相手先に届ける、そしてそのことを上司に報告することではじめて「書類のコピーをとる」という仕事が完了する(実際にはそのコピーが役に立って初めて完了する)のです。
期間を要する仕事を指示された場合は、途中経過や進捗状況の報告が必要で、上司から「あれはどうなった」と聞かれたら「もう遅い」と思わなければならず、期限が過ぎても「無しのつぶて(ノーレスポンス)」にするのは論外です。
<参考>コミュニケーションの七つ道具
第一:傾聴する
コミュニケーションの第一は、「聴く」ことです。相手の言うことが自分の認識や意見と多少違っていても、途中で遮らず、頭から否定せず、先ずは最後まで相手の言い分に耳を傾ける(肯定的傾聴)ことが第一です。
相手と視線を交えながら聴く、頷き、相槌しながら聴く、メモをとりながら聴く、興味と関心を持って(「!」や「?」を多く持って)聴く、自分の理解を復唱や質問などによって確認しながら聴く(能動的傾聴)という態度が必要です。
相手が「何を言っているか」にこだわり過ぎず、「何を言いたいか」という、相手の「思い・意図・目的」への感度を高めながら聴く(共感的傾聴)ことも必要です。(「言っていることは分からなくても言いたいことは分かる。」)
第二:伝える
第二は、「伝える」ことです。自分が「何を言うか」よりも、それを相手に「どう伝えるか」、相手に「どう伝わるか」のほうが重要です。そのためには、「分かり易さ」や「伝わり易さ」のための努力・工夫・配慮が必要です。
<「分かり易さ」の工夫>
□ 簡潔・明瞭・平易・正確に … 言語的に簡潔・明瞭に。一般的で平易な言葉を使うこと、同じ言葉を同じ意味で使うこと、特殊な言葉は定義して使うこと、専門用語は正確に使うこと。一文一意、一問一答を原則とすること。
□ 文法的に … 主語と述語を一対一に対応させる(「誰が~します」「何が~です」の対応)、5W2Hを明確にする(Who, What, When, Where, Why, How to ,How much)、質問と回答を一対一に対応させることなどです。
□ 論理的に … 「1+1=2」という数理、「AはBである」という論理を積み上げる。実務では文学的・情緒的修飾を排し、事実と意見、結論と理由、結果と経緯を順序立て、項目立て、箇条書きにして言う(書く)習慣が必要です。
□ 具体的に … 相手にとって身近な例を挙げて「例えば」と例示的に。不確かなことは曖昧化・抽象化して誤魔化さずに確認してから言う(書く)こと、現実に即して「具体的には…」と具体的に言う(書く)ことです。
□ 視覚的に … 情報の八割は視覚情報です。文字や数字の羅列だけでは十分に伝わりません。図表、一覧、動作や表情、画像や映像などによって「読めば分かる」以前に「見れば分かる」ようにする努力・工夫・配慮・習慣が必要です。
□ 指し示しながら … 自分が何を言おう(書こう)としているかを、「もうひとりの自分」の視点で常に相手に指し示しながら言う(書く)ことです。例えば「結論は~、理由は三つ、一つ目は~」という言い(書き)方が必要です。
□ 会話的に … 一方的にまくしたてるように言っても伝わりません。相手の理解や興味や関心や感情に応じたやりとりを通じて理解を積み重ねる努力・工夫・配慮・習慣が必要です。
第三:共感する
第三は「共感」です。「傾聴」においては相手の「思い」や「感じ」への共感です。また「伝達」においても、相手の「思い」や「感じ」への共感がなければ、自分の「思い」や「感じ」を上手く伝えることはできないでしょう。
人間は「論理」の世界だけではなく「感情」の世界に生きています。相手の感情を尊重し、「相手が言っていることは分からなくても言いたいこと(言おうとしていること)は分かる」関係に立つことが肝要です。
第四:理解を得る
第四は「理解を得る」ことです。「傾聴」と「伝達」と「共感」の双方向のコミュニケーションを通じて、相手の「理解」を形成することです。そのためには次のような「会話」をすることが重要です。
□ 噛み合う会話
「質問と回答が一対一に対応しない」ような会話はダメ。相手の発言に対する「傾聴」と、その「意味や内容」「意図や目的」への理解や共感」を少しずつ積み上げて合意を形成する努力や工夫や配慮が必要です。
□ 否定しない会話
「ああ言えばこう言う」式に、相手の発言の機先を制するように否定してはならず、また、出来ない理由や言い訳、否定や批判だけで終わってはならず、「ではどうするか」という具体的な「解」につながる会話でなければなりません。
□ つながる会話
礼儀正しさと親しみ易さが言葉や態度や表情に表れていること、肯定的受容と積極的傾聴の態度が基本にあること、相手の発言に対する興味と関心(「!」と「?」)を示すことが会話の促進につながります。
□ 後戻りしない会話
例えば「論点や争点(認識や意見の相違点)」を予め整理せずに「とりとめのない雑談」で終わる会話ばかりでは困ります。論点を明確にし、合意事項を確認し、議論の「蒸し返し」や「言った、言わない」の無益な争いを防ぐべきです。
□ 譲り合う会話
例えば「争いを止めて互譲する(合意点を見出す)」ことのば会話はダメ。。自分の認識や意見に固執せず、本来の目的を見失わず、手段や手法に拘り過ぎず、「正否や合理」を優先し「利害や好悪」を持ち込まないことが必要です。
□ 合意と共感の会話
会話を通じて共通の「理解」や「認識」が得られ、「感じ」や「思い」が共有できれば何よりです。「自分の言葉より相手の言葉で会話する」こと、「言いたいことは自分の口よりも相手の口から出てくる」ことが大事です。
第五:合意を形成する
第五は「合意を得る」ことです。「仕事上手はコミュニケーション上手」です。コミュ二ケーションを通じて相手や周囲(人と組織)の理解・納得・合意・協力を得ながらすすめるのが仕事の基本です。
多忙な中からもコミュニケーションの機会と時間を何とかして捻出し、傾聴・伝達・共感の双方向のコミュニケーションを尽くし、達成し、実現しようとする目的や価値のレベルでの合意を積み上げて行くこと。
第六:協力を得る
第六は「協力を得る」ことです。そのためには、コミュニケーションを通じて、人と組織に、何が正しく、どうすべきかを指し示し(Orientation)、動機付けること(Motivation)が必要です。
何が相手の動機付けになるかは相手次第および相手との関係次第です。それが人間的・社会的諸価値なのか、経済的な対価なのか…。何が「Give & Take」や「Win-Win」に値する価値なのかを会話の中で探り当てる以外にありません。
第七:良好な人間関係を築く
第七は「良好な人間関係を築く」ことです。コミュニケーション能力およびそれに基づくヒューマンリレーション能力(人間関係構築能力)は、組織的に仕事を進める上でたいへん重要な能力です。
ソリューション能力(問題解決能力)こそが、仕事を進める上で究極的に必要な能力であり、仕事上の問題の多くは現実的にはコミュニケーションの問題から生じ、「人間関係の問題」から生じるのです。
<追記事項①>和顔愛語
誰に対しても、どんな時でも、穏やかな表情を崩さず、優しい言葉で人に接すること。どんな人にもポジティブな感情もネガティブな感情もありますが、できるだけポジティブな感情を表情や言葉に出すようにしましょう。
また、「和顔愛語」とは、内心と異なる表情や言葉を取り繕うことではありません。普段から「和顔愛語」を心がけ、それを自分の習慣にしていれば、いつの間にかそれが自分の「心の持ち方」として定着し始めるはずです。
社会人として、自分の表情と言葉には、配慮や洗練が必要ですし、責任を持たなければいけません。さらに、そうすることを通じて自分の「心の持ち方」を「より良きもの」にして行くのが、社会人としての「成長」だと思います。
<追記事項②>コミュニケーションの苦手な人へ~幼児期の人格形成と自己認識~
「生まれつきコミュニケーションが苦手な人」はいません。おそらくその人が「4~5歳のときに築かれた人格の原型」が、どちらかと言えば「コミュニケーションが苦手」というの方向に傾いていただけだろうと思います。
「自分が4~5歳のころに、どのような人格の原型が築かれたのか?」という振り返りは、「自分はこうだ」と決め込んでいるパーソナリティの由来と、変容や成長の可能性を考える(=自己認識を深める)うえでたいへん有効です。
そして、「人と話をする」のが得意な人や、「書き物にする」のが得意な人など、いろんな得意分野があるのですから、それぞれ自分の得意分野を通じてより多くの人と接する機会を意識的につくるのが良いと思います。
<追記事項③>書く力
インターネットが当たり前になった現代では、日常生活で「話す」よりも「書く」ことのほうが多いように思いますが、筆者の職場には「書く」ことはむしろ苦手で、「話す」ことのほうが得意に見える人が意外に多くいます。
しかし、その人たちの「話す」ことを聞いていると、少なくとも筆者には「非論理的」に思える点が多く、その人たちは「書く」ことが苦手であると言うよりは「論理的に考え、話すこと」が苦手なのかも知れないとも思います。
そうした人たちが通知文ひとつ書くのに困っているときには、「相手がそこにいると思って、何を伝えたいか、口に出して言ってみて」⇒「それをそのまま箇条書きにして」⇒「相手の立場で読み返し推敲して」と「指導」しています。
<追記事項④>否定しないこと
良好な人間関係を築こうとしたら、「相手を否定しないこと」だと思います。相手の「言うこと」や「すること」を一方的に否定せず、先ずは肯定的に受容することです。これが出来ない相手とは決して良好な人間関係を築けません。
何事に対しても「否定から入る」人がいますが、そういう人はあまり良い人間関係は築けません。あらゆるものごとにはポジティブな面と同時にネガティブな面があるのは当然で、ネガティブな面に目を奪われては何も進みません。
「悪く思わず、悪く言わず」ということも、誰とでも良好な人間関係を築くための要諦のひとつだと思います。相手がどんなことを言おうがしようが、それを悪く解釈すればきりが無く、悪く言っても仕方が有りません。
<追記事項⑤>電子メールの効用と弊害
これだけ電子メールが普及しても、電子メールで聞けば済むはずのことを、わざわざ電話で言ってきたり、聞いてきたりす人たちがいますので、筆者は「行き違いがあるといけませんのでメールにして下さい。」と言うようにしています。
もし、電子メールが面倒(文章を書くのが苦手)だから電話にしようと思っている人がいたら大間違いですし、将来の訴訟に備えて不利な証拠を残さないために電話にする、というのもフェアな態度ではありません。
ただし、電子メールでは、微妙なニュアンスは伝わりにくく、一度生じた誤解を解くのは大変で「議論や批判をしないこと」は鉄則です。電子メールでの意思疎通の限界を感じたらフェイスツーフェイスに切り替えるべきです。