1.綱引き理論(集団的サボタージュの心理)に陥らない
AさんとBさんが1対1で綱引きをする場合と、(A1、A2、A3)の3人組と(B1、B2、B3)の3人組が綱引きをする場合とで比較すると、ひとりひとりが現実に発揮する能力の割合は、どのように異なるでしょうか?
A 対 B (A1,A2,A3) 対 (B1,B2,B3)
ある心理学者が実験的に検証したところ、得られた結論は、「3人対3人の綱引きで発揮されたひとりひとりの能力は、1人対1人の綱引きで発揮されたひとりひとりのパワーより数割も小さい」というものでした。
「チームワーク」という言い方で、1人の場合の3倍以上の力が3人の場合に発揮されるかのように言いますが、「チームワーク」というのは、実は「力を合わせる」というより「サボタージュを防ぐ」ことなのかも知れません。
この理論を裏付ける現象はわれわれが普段でも容易に目にすることができ、「多数の通行人が倒れた人を見て見ぬふりをして通り過ぎる」とか、「集団になると急にマナーが悪くなる」という例などがあります。
「組織的な協働」が当たり前であるはずの企業活動においても、実際には「協力を惜しむ」人のほうが多いと感じる場面もあり、これらの人々からいかに多くの「理解と協力」を引き出すかが最大の苦労のようにも感じます。
「組織的に協働しながら仕事を進める」ということは、こうした「集団的サボタージュ」の心理に陥らないように、「快く協力する」ことや「ルールを率先順守する」ことが基礎になっていなければ成り立ちません。
2.自分のOUTPUTが相手にとって最適なINPUTになるように仕事をする
「組織的な協働を通じて仕事をする(人と組織との協働関係を通じて仕事をする)」ということは、ちょうど、サッカーのゲームでメンバーの全員がパスを上手く繋いで行きながら最終的なゴールに達するのに似ています。
仕事は自分一人ではなく、組織的な仕事というものは、目的を達成し、価値を実現するための仕事のINPUTとOUTPUTの連鎖であり、自分にとってのOUTPUTが相手にとって最適なINPUTになるように進めなければなりません。
「最適な」というのは、自分にとってだけではなく、相手にとっても「最適な(扱いやすく、少し頑張れば追いつける)」、組織(チーム)にとっても「最適な(効率的・効果的に目的(ゴール)に達する)」と言う意味です。
3.組織化=メンバーのインプットとアウトプットの最適連鎖の関係をつくる
組織化とは、本来、何らかの人間的・社会的目的を達成したり、何らかの人間的・社会的価値を実現したりするために、最適なメンバーを選び、最適な仕事をアサインし、メンバーどうしの組織的協働関係を築くことです。
あるメンバーのアウトプットが他のメンバーの最適なインプットとなりそのメンバーのアウトプットがさらに他のメンバーの最適なインプットとなるというメンバー間のインプットとアウトプットの最適連鎖の関係をつくることです。
「組織の歯車にならず自分らしい仕事がしたい」という言葉を聞きますが、組織の目的や価値に共感し、自ら組織の一員となった以上、最適な組織的協働関係を通じて自己実現する以外には「自分らしさ」を発揮する道はありません。
そうでなければ、自らの目的や価値を掲げ、自ら単独または同志を募って自ら組織を立ち上げ、「組織の歯車にならずに」目的を達成するか、または自らがその組織の支配者となる以外に、「自分らしさを発揮する」途はないでしょう。
<追記20160122>組織の効率を下げる「七悪」
① メンバーどうしのいがみ合い
私的関係・私的感情のもつれ、反目、非協力、ネグレクト。
② コミュニケーションの悪さ
報連相の不履行、文書化の不徹底、情報の共有化と意思の共有化の不徹底。
③ 個人プレー(自分勝手)の横行
自分のOUTPUTが、他のメンバーの最適なINPUTになっていない。
④ 犯人探し(悪いのは他人のせい)
良いことは自分の成果、悪いことは他人の責任、自分は何もしない。
⑤ 出し惜しみ
少しばかりの自分の手間や負担を惜しむばかりで協力しない。
⑥ 評論家の横行
現場を知らず、もっともらしい一般論、対案も実践も伴わない否定や批判。
⑦ 悪しきセクト主義
他部署が悪戦苦闘しても我関せず、組織全体の目的を見失う。
<追記20160409>Consideration(気付き・気遣い・配慮)
組織的協働(Cooperation)を円滑に進め、その効率性を最大限に発揮するために、組織構成員一人ひとりの日常的な発想や行動や態度として重要なことのひとつは、お互いの、相手への気付き・気遣い・配慮(Consideration)です。
どのような仕事でも相手への視点を欠いては仕事が成り立ちません。相手が何を望み期待しているか、相手にとって何が価値であり便益であるか、自分の尺度でなく、相手の尺度でモノを測ることが出来ないと、良い仕事はできません。
相手が「顧客」としての「相手」だけでなく、「組織的協働」を行う「仲間」としての「相手」です。サッカーのパスを繋いでいくのと同じように、相手にとって最適のInputとなるようなOutputで仕事を繋ぐことが「協働」です。
<追記20160430>Communication(コミュニケーションの力は仕事の力)
仕事がうまく行くのも行かないのも、その原因のほとんど全てはコミュニケーションがうまく行くか行かないかであって、まさにコミュニケーションの力こそは仕事の力なのです。
3_1 自分の手間を惜しまないでほしい
皆さんは心理学でいう「綱引き理論(もしくは集団的サボタージュ)」という理論は「1対1」の綱引きよりも「N対N」綱引きのほうが一人あたりの発揮能力は小さく、人は集団化するほど責任回避的になるという趣旨の理論です。
一般には「チームワーク(組織力)を発揮する」というような言葉で、あたかも「1対1」の綱引きよりも「N対N」の綱引のほうが、一人当たりの発揮能力が大きいかのように誤解していますが、実験心理学では逆の結果が出ています。
端的に言えば「誰かがやるだろう」「少しくらい大丈夫だろう」などと思って「手を抜かない」「サボらない」ことです。時間も約束も守らない人は論外です。理解も協力も示さない人も組織的協働にはなじみません。
3_2 他のメンバーの仕事がしやすくなるように仕事をしてほしい
組織的協働というのはメンバー間のアウトプットとインプットの連鎖としてイメージできると思いますが、「自分の仕事のアウトプットが他のメンバーの最適なインプットになるように仕事をすること」がメンバーシップのひとつです。
「他のメンバーの仕事がしやすくなるように仕事をする」ことです。報告・連絡・相談による事実関係と問題意識の共有化、仕事のプロセスとノウハウのマニュアル化などが「他のメンバーの仕事がしやすくなる仕事のしかた」です。
ONE for ALL, ALL for ONE というのは、ラグビーのようなチームで行うスポーツの理念のひとつですが、結局これは組織的協働の理念に通じ、広く一般的な人間的・社会的協働の理念に通じるものです。
3_3 組織協働的に仕事をしてほしい
ドラッカーは「組織」を以下のように定義しています。(「P.F.ドラッカー経営論集」ダイヤモンド社より)「組織」とは、何らかの目標の達成や、価値の実現のための、人と人との協働体であり、企業もその例外ではないはずです。
① 共通の目的と価値へのコミットメントを必要とし
② 組織とその成員が、必要と機会に応じ、成長し適応し、
③ あらゆる種類の仕事をこなす異なる技能と知識をもつ人たちから成り、
④ 成員は、自ら成し遂げるべきことを他の成員に受け入れてもらい、
⑤ 成果はつねに外部にあり、測定・評価・改善されなければならない。
「仕事が上手く行く」かどうかは、例外なく「組織的な理解や協力が得られる」かどうかに依存している、ということです。よほどの天才的独創家でないかぎり、このことは全ての「働く人たち」に共通するはずです。
3_4 リーダーシップよりメンバーシップを実践してほしい
世間では「リーダーシップ」や「マネジメント」に関する議論のほうが盛んだとは思いますが、筆者自身は、「リーダーシップ」や「マネジメント」以上に(以前に)、「メンバーシップ」のほうが大切だと思います。
具体的には下記の通りで、これらのことが企業や組織の構成員(エントリーレベルの構成員であれ、リーダーレベルの構成員であれ)にとって「当たり前」化し、「日常習慣」化していなければならないはずのことがらです。
1)仕事を進めるうえでより良くコミュニケーションするということ
2)仕事の相手や対象に対するイマジネーションを働かせるということ
3)自分の手間を惜しまずコ・オペレーションするということ
4)誠実・勤勉で思慮・配慮に富むこと
5)仕事を通じて職業人・社会人として成長するということ
6)目標をもって仕事をするということ
7)計画的に仕事を進めるということ
8)組織的に仕事をする(人と組織から理解と協力を引き出す)ということ
3_5 誠実かつ勤勉で、配慮に富む人であってほしい
我々が「仕事をする人々」に「こうあってほしい」と願うことは、同時にそのまま、我々自身が「仕事する人々」として相手や周囲から期待されることです。以下「仕事をする人々」に期待される誠実・勤勉・配慮について例示します。
① 誠実であること
嘘をつかない、誤魔化さない、いい加減なことをしない、時間や約束や規律を守る、人の期待や信頼や信用を損ねない、自分の都合や利益を優先させない、誤りや不備を素直に認めて改める、自分以外の存在に謙虚であること・・・
② 勤勉であること
自分自身の労や手間を惜しまない、「~のため」に力を尽くすことができる、自分の仕事に責任を持って途中で諦めず投げ出さず結果が出るまでやりきる、怠けないこと、自分を甘やかさないこと、自己学習や自己成長を怠らない…
③ 配慮に富むこと
仕事上の言動や態度に相手や周囲への気遣いがあること、相手の都合や事情を尊重できること、相手の感情を感知し尊重できること、自分の感情を制御し好転できること、仕事ぶりが親切で丁寧であること・・・
いずれもわれわれが「仕事をする人々」に期待し、また同時に期待される最も基本的・人格的態度のように思えますが、これらはなんら専門的な事項でも技術的な事項でもなく、本来取り立てて言うほどのことでもないはずです。