1.筆者自身のこと
筆者はおよそ30年間にわたって、さまざまな業態の企業の人事管理の実務に携わってきました。もちろん最初は理論も体系もテキストもない「人事」の世界での見よう見まね、試行錯誤、良い意味でも悪い意味でも勉強の毎日でした。
最初に職を得た「大企業」でいわゆる「管理職」になったのち、やがて自分の進路としてそのまま組織人として栄達する将来が良いのか、それともひとりの職業人として自己確立する将来が良いのかと岐路に立つ思いを抱くようになりました。
いわゆる「大企業」というのは、いったんその中に入り込んでしまうと、気付かないうちに一般社会と隔絶された当該組織固有(独りよがりや思い上がり)の論理で発想・思考・行動してしまう面があり、とくに「大企業」の「人事部門」ともなるとその傾向が強かったように思います。
2.「このままでは馬鹿になる」と言って会社を辞めて行った「人事」の先輩
先輩が「このままでは馬鹿(一般社会に通用しない=当該組織の中でしか使えない)になる」と言って組織を離れていったことに共感と自覚を抱きつつ、自分も最初に勤めた「大企業」を辞め、その後はさまざまな規模や業態の企業のいくつかを経て今日に至っています。
その間(大企業の人事を離れ、外資~中小~公営の各企業の人事を経て今日に至るまで)を振り返って「人事はどのような仕事や職業として成り立ちうるか」ということに関する筆者なりの思いや考えを下記に列挙してみます。
①「人事」は企業や組織の効率を高める。
「人事」は企業の経営管理の仕組みや機能として成り立ちうる。つまり、人と人が組織的協働を通じて一定の人間的・社会的な目的を達成し、価値を実現しようとする営みを、より効果的かつ効率的に進める仕組みや機能として。
②「人事」は人と組織の成長を促進する。
「人事」は人と組織の最適関係(=企業や組織を通じた人間的・社会的な目的の達成や価値の実現、またその効果的・効率的運営と、組織的・社会的協働を通じた人の成長や自己実現の同時に達成・実現するような関係)を導く手立てとなりうる。
③「人事」は職業として成り立つ
「人事」は企業や組織の経営管理機能のひとつであるという点において個々の企業や組織からの独立性や専門性を保ちうる。また資本主義的な企業や組織の運営においても社会主義的な企業や組織の運営においても共通的・普遍的な機能でありうる。
3.「人事」の職業倫理もしくは指導理念
どのような職業においても「職業倫理」があるはずです。その意味で「職業に貴賎はない」のであり、「職業を通じて人が育つ」のだと思います。以下には筆者自身が「人事」という職業や仕事を通じて得た(つもりの)倫理や理念を整理してみます。
①フェアであること
ある企業経営者から「口はひとつ、耳はふたつ」という言葉を聞いたことがあります。また、あるテレビドラマで、主人公が「一方を訊いて沙汰をするな」と言うのが耳に残っています。いずれも人やものごとに対して謙虚でフェアであることを求めた言葉であると思います。
採用においても、評価においても、異動においても、やはり「人事」に必要なことの第一は、聴く耳を持ち、視る目を持ち、独断や独善に陥らず、一方に偏らず、何(誰)に対しても謙虚で誠実であることだと思います。
②拠るべきはヒューマニズム
孔子はその高弟に「人間にとって一番大切なこと(それがなくては人間でなくなってしまうほど大切なこと)は何か?」と訊かれて、「其れ、恕(じょ)か」と答えたそうです。人間として、人の心の哀しさや苦しさが自分の痛みとして分かる、という意味でしょう。
人事という仕事を通じて人の信頼関係を築こうとするとき、また、人や人の仕事に対して否定的な評価を下すときや人に不利益なことを求めるときでさえ、失ってはならないこと、拠って立つべきことは「ヒューマニズム(人間らしさ)」だと思います。
③謙抑的であること
筆者はあまり勤勉な法学徒ではありませんでしたが、ある高名な刑法学者が、その著書の中で一貫して「権力の謙抑性」ということを説かれていたことは、今でも印象に残っています。刑罰権という最強の国家権力を担う者にとって「謙抑性」は絶対不可欠の要件です。
人事という権力も、人の意に反してこれを用いることができる場面が数多くあります。しかし、でき得る限りを尽くして、そうした権力的な人事権の行使をせず、何とかして合意・納得・信頼・和解をベースに問題を解決していくのが人事だと思います。
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