hrms-jp  人事労務マネジメント研究会
  • ホーム
  • 令和7年税制改正をふまえた税務申告と年末調整
  • 人事マネジメントのAtoZ
  • 基本的な仕事のしかたのAtoZ
  • 人事の悩みごと(コラム)
  • 働き方改革懇談会
  • 人事労務マネジメント様式集

5_1 何をもって人を処遇するか? ☆

 

1.「処遇」とは何か?

 

 「処遇」とは、組織や企業の中で、個々の構成員に、例えばどのような雇用区分で、どのような職位や給与などを適用するかということです。例えば、「正規職員として採用する。部長職とし、基本年俸**万円とする」などのように…

 

 多くの読者にとって「処遇制度」は既成の人事制度であるとは思いますが、それがどのような基準や原理で成り立っているかを知ることは、実際にそれを運用する(部下をしかるべく処遇する)上でたいへん有意義であるはずです。

 

2.処遇の基準

 

  何を基準に処遇を決定するか、というのが「処遇の基準」です。「何が」高ければより手厚く・高く処遇するか、という際の「何が」にあたる部分です。例えば、年功、経験、能力、実績、評価などが、この「処遇の基準」になり得ます。

 

①「年功」や「経験」という処遇の基準

 

 いわゆる「年功」が「処遇の基準」になり得るでしょうか。もし「年功主義」がまさにその言葉通り、「年々歳々功(徳)ある者を高く(厚く)遇する」という実態を伴うものであるなら、これほど人間の情理に適う基準はありません。

 

 また、特に医師などの「処遇の基準」は、「卒年(年次)と経験(年数)」であることが多く、それに能力や実績が実態として伴うものであるなら、特に専門的な職種においては、これほど合理性や納得性の高い基準はありません。

 

 しかしそれで全てが上手く行くわけではなく「年齢も高く経験も長い」人が必ずしも能力や高く、貢献が大きいとは限らず、「年齢も低く経験も短い」人が必ずしも能力が低く、貢献も小さいとは限らないため、年功制の弊害が出ます。

 

②「功」と「徳」という処遇の基準

  

 「功には禄を、徳には位を」という趣旨の言葉があります。人の功績を評価して報酬で処遇し、人の人徳を評価して地位で処遇するのが良い(人も国も良く治まる)という教えです。

 

 そもそも組織(企業)とは、何らかの人間的・社会的な目的を達成し、価値を実現するためのものですから、「功」とは企業(組織)の目的の達成や価値の実現にどれだけ貢献したか(貢献できるか)ということです。

 

 また、組織(企業)が目的を達成し、価値を実現するのは、構成員たる人々の組織的・社会的協働を通じてですから、人と組織からそうした協働による成果を引き出すためにはメンバーやリーダーに高い人間的社会的な協働性が必要です。

 

 参考 利己と利他、公の人と私の人

 

③「能力」や「実績」および「評価」という処遇の基準

 

 「年功」や「経験」だけで「割り切れない」(必ずしも「年々歳々功ある」者ばかりでない)ところに現実(実態)の悩みがあるのでしょうから、それを「是正」する基準として、例えば「能力」や「実績」などの基準が必要となります。

 

 「年功」や「経験」による処遇を是正するはずの「能力」についは、現実には「能力自体を適正に評価すること」は極めて困難であり、「実績」についても、「組織的協働の成果を個々人の努力や貢献に還元すること」にも相当困難です。

  

 そこで「能力」や「実績」などを総合して、組織(企業)の目的達成や価値実現への「貢献度(および協働性)」を問う「人事評価」と、それにに基づく処遇がより信頼性・妥当性・納得性のある処遇基準となります。

 

④「成長段階」という処遇の基準

 

 ところで、人が企業組織で協働的に仕事をすることを通じて「成長する」ということについて、筆者は次のような三つの成長段階を想定しています。(詳細は、「人と組織が成長するとはどういうことか?」の稿をご参照下さい。)

 

1)人の成長の第一段階 

… 具体的な指示に基づいて職務を遂行するレベル(遂行レベルまたはエントリーレベル)。この段階における人と組織の関係は「従属的関係」である。

 

2)人の成長の第二段階

… 包括的な指示と自らの判断のもとに職務を遂行するレベル(判断レベルまたはメンバーレベル)。この段階における人と組織の関係は「主体的関係」。

 

3)人の成長の第三段階

… 職務上の判断と指導が主な職務となるレベル(指導レベルまたはリーダーレベル)。この段階における人と組織の関係は「主導的関係」である。 

 

 つまり、②の「能力」「実績」「評価」の結果と同じですが、上記の遂行-判断-指導という「成長段階」に応じて、個々の人を処遇すれば良いのです。このことは、新卒後概ね経験年数15年程度以内の人の処遇基準に適しています。

 

⑤「役割」という基準

 

 上記の処遇基準は、いずれも「属人的」な概念です。それはそれで「人間的」で良いのですが必ずしも経営合理的ではありません。そこで既にいくつかの企業では、「役割」という概念が、処遇の基準として採用されています。

 

 つまり、「組織(企業)」とは、何らかの目的を達成し、価値を実現しようとする人々の協働体なのですから、個々の構成員にはそれぞれPosition(位置付け)とMission(果たすべき役割)が定義できるはずなのです。

 

 この「役割」の大きさ・重要さ・困難さの期待水準に応じて処遇の基本要件(職位や給与などの基準)を定めればよいのです。そして、この期待水準を現実に発揮した程度を評価して、処遇(昇任や昇給)に反映させれば良いのです。

  

3.処遇階層のモデル

 

 上記の④の成長段階と、⑤の役割を基準にすれば、企業組織で働く人たちの処遇の階層構造は、例えば以下のように描くことができます。

 

 管理職層  2級・1級    専門職層 2級・1級

          

 遂行職層  3級・2級・1級

 

<モデルの説明>

 

・遂行職層の上位に管理職層と専門職層を置く。

・遂行職層は「成長段階」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

 1級 … 指導レベル(リーダーとしてメンバーを指導する)

 2級 … 判断レベル(包括的指示に基づいて判断しながら業務を遂行する)

 3級 … 遂行レベル(個別具体的指示を正確・迅速・丁寧に遂行する)

・管理職層は「組織の大きさ」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

 1級 … 大規模組織の管理責任を通じて事業に貢献する。

 2級 … 小規模の組織の管理責任を通じて事業に貢献する。

・専門職層は「専門性の高さ」に応じて1級‐2級‐3級に区分する。

 1級 … 極めて高い専門性を発揮しながら事業に貢献する。

 2級 … 高い専門性を発揮しながら事業に貢献する。

・遂行職層内の等級昇格は人事評価による。

・遂行職層から管理職層または専門職層への任用は選抜試験による。

・但し管理職層と専門職層のポストと定員は組織の規模と必要に応じて定める。

・管理職層内および専門職層内の等級昇格は人事評価と定員充足状況による。

 

<追記事項>遂行職層の処遇原理と管理職層・専門職層の処遇原理の違い

 

 遂行職層における処遇原理は「能力主義」です。あらかじめポストや定員を定めることなく、各級を母集団とする人事評価(態度-能力-実績)において継続的に一定以上の高評価を得た者を上位等級に処遇すれば良いでしょう。

 

 遂行職層から管理職層または専門職層への任用原理は「選抜主義」「定員主義」「組織原理」です。管理職層も専門職層も、「どういうレベルにどういうポストを置くか」したがって「定員を何名とするか」は「組織設計」の問題です。

 

 いくら「優秀な人たちが多い」企業や組織であっても、その優秀さを発揮するだけの事業が成り立っていなければ、そうした事業を推進する組織も成り立ちませんし、そうした人たちを処遇できるポストもありません。

 

<追記事項>「専門職」と「専任職」の違い

 

 いわゆる「戦後の高度成長期」には事業が右肩上がりに拡大するし、それに伴なって組織構造も拡大し、年齢別人口構造もピラミッド型だったでしょうから、人を処遇するのに、ポストが不足して困ることもなかったでしょう。

 

 ところが経済成長が鈍化して事業の拡大も組織の拡大もままならず、大量採用時代の人たちが高齢化するとその処遇に困り始めた、というのが、従来の「管理職」以外の処遇方法としての「専門職」または「専任職」だったのでしょう。

 

 しかし、真に「組織上の必要」や「専門性の高さ」に根ざした処遇としての「専門職」ならまだしも、本来なら「遂行職」や「管理職」の業務の一部を担う「専任職」は、まさに「困った末の処遇」でしかなかったはずです。

  • 採用ミスを防ぐには
  • 何が人と組織を成長させるか
  • 人と組織を動機付ける
  • 目標管理制度の形骸化
  • 人事評価制度の形骸化
  • 何をもって人を処遇する?
  • モラールマネジメント
  • メンタルヘルスマネジメント
  • パワハラを防ぐ
  • 退職のマネジメント

hrms-jp  人事労務マネジメント研究nou会

代表・特定社会保険労務士

河北 隆

〒270-1357

千葉県印西市牧の木戸1-7-4

mail    hrms@grace.ocn.ne.jp

一般企業や医療機関等での人事実務経験と特定社労士としての専門性に基づき、主に医療・福祉・介護分野の人事労務マネジメントを支援しています。

<資格>

特定社会保険労務士

衛生工学衛生管理者

情報処理技術者

医療労務コンサルタント

産業心理カウンセラー

概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
All rights reserved by hrms-jp
ログイン ログアウト | 編集
  • ホーム
  • 令和7年税制改正をふまえた税務申告と年末調整
  • 人事マネジメントのAtoZ
    • 採用ミスを防ぐには
    • 何が人と組織を成長させるか
    • 人と組織を動機付ける
    • 目標管理制度の形骸化
    • 人事評価制度の形骸化
    • 何をもって人を処遇する?
    • モラールマネジメント
    • メンタルヘルスマネジメント
    • パワハラを防ぐ
    • 退職のマネジメント
  • 基本的な仕事のしかたのAtoZ
    • 協調と協働_Cooperation
    • 意思疎通_Communication
    • 誠実と勤勉_Faithful
    • 丁寧で親切な仕事_Kindness
    • 仕事のイロハ_Literacy
    • 仕事への動機付け_Motivation
    • 速さは強さ_Quick Action
    • 敬意を持って_Respect
    • 思慮深さ_Thoughtfulness
    • 仕事したくない人_X-theory
  • 人事の悩みごと(コラム)
    • ノーレ スポンスな人たちと…
    • どっちつかず状態に耐える力
    • 相手の視点から発想できるか
    • ノーレスポンスは闇か光か?
    • マズロー欲求段階説の読替え
    • 同じコップの中でなぜ争うか
    • 寄り添うなんて余計なお世話
    • なぜ書くことが億劫なのか?
    • 省事(仕事を省く)のすすめ
    • 人はなぜ休日に「休む」のか
    • 商業主義と二次主義を排する
    • 猿に聴いて貰えるように言う
    • 悪く思わない、悪く言わない
    • 当たり前を相手に強要しない
    • コラボと言われても無理です
    • 詭弁や強弁に負けないように
    • 組織のコミュニケーション力
    • 人を動機付けることは難しい
    • 相手のほうに習慣を作り込む
    • 採用しないほうがいい人たち
    • どんな人でも三年付き合えば
    • リスペクトトレーニングって
    • ファクトとロジックとその先
    • 価値観の違いは優先度の違い
    • ちょっと困った部下への対応
    • 気付くことは教えられるか?
    • クイックレスポンスは仕事力
    • 人は何のために「働く」のか
    • 人はどこまで自分本位なのか
    • 能力と適性と意欲に応じて…
    • 我以外みな我が師と言えるか
    • 管理職が言うべきでないこと
    • 論語に学ぶ人事マネジメント
    • 組織の中は無駄と矛盾ばかり
    • 利他的な行動が選択できる人
    • マネジメントするということ
    • リーダーシップとは何なのか
    • 現在は今までの選択の結果だ
    • 人を幸福にできない社会制度
    • 日々小信を忽せにすべからず
    • アウトプットよりアウトカム
    • パワハラと注意指導の境界線
    • 時には母ごころで聴いてみる
    • 選別の論理か、育成の論理か
    • 退職や解雇が「解」なのか?
    • 毀誉褒貶は人の世の常ならむ
    • 人は「材」や「財」ではない
    • 思い悩んで書いて苦しむこと
    • 違いは決して間違いではない
    • 人はなぜ戦うのが好きなのか
    • 忙しがる人は多くを亡くす…
    • 他者肯定なしに自己肯定なし
    • 育てることは信じて待つこと
    • 働く人たちの未熟性と成長度
    • 人は変わるか、変えられるか
    • 人事が人を見る眼、育てる眼
    • 人事評価はそんなに難しいか
    • 職場を救うたった3つの習慣
    • 職場コミュニティーは幻想か
    • 前面に意を、両翼に理と情を
    • 誠実を尽くせば必ず解決する
    • ものの言い方に人格が現れる
    • 一方を聞いて沙汰すべからず
    • 自己決定と相互支援の原理…
    • 組織が人体に学ぶことは多い
    • 組織はプロジェクト型が良い
    • 困った人達は困っている人達
    • PDCAは1日1回廻すこと
    • 仕事は能力よりも習慣と方法
    • 思いて学ばず、学びて思わず
    • 働き方そのものの働き方改革
    • 言動と態度の合理的な選択を
    • 今さらながらのコーチング論
    • 人と仕事には好き嫌いがある
    • パワハラをする人とされる人
    • 働く人たちのこころを守ろう
    • 言い訳せず、人のせいにせず
    • 仕事をする上で一番大切な事
    • 誠実で勤勉であることの尊さ
    • 仕事を作業にしてはいけない
    • 協調性と協働性の微妙な違い
    • 優先順位は価値観のあらわれ
    • 仕事をする人の成長三段階説
    • 部下には指導より支援が必要
    • 時空一体に見れば解が見える
    • 人事という仕事は何だったか
    • より良く働きより良く生きる
    • 人間は天性として知っている
  • 働き方改革懇談会
    • メンタルヘルスと休復職
    • 最近のパワハラ事例に思うこと
    • 人格適応論を用いたアプローチ
    • 給与制度と給料表
    • コンフリクトマネジメント
    • 事例に学ぶ外国人雇用
    • パワハラから労災認定まで
    • 新人研修と管理職研修
    • ベア評価料と賃金制度(2)
    • ベア評価料と賃金制度(1)
  • 人事労務マネジメント様式集
閉じる